クラシック第一関門皐月賞。今年は混戦と言われながらも、出走各馬がそれぞれのカラーを持ったバラエティに富んだメンバー構成だったため、俗に言う混戦の中でも比較的レベルは高いように感じる。そんな好メンバー相手に一冠目を手中に収めたのはゴールドシップだった。
毎週土曜日に決まって雨が降った春の中山開催。当然のように芝はボコボコで、特に内の荒れっぷりは酷かった。芝のレースはとにかく外差し外差しのわかりやすいレース展開だっただけに、各馬の鞍上も外に意識が向いていたことはある意味当然だった。
公約通りメイショウカドマツとゼロスが逃げる展開。2頭並走で引っ張っていくものかと思われたが、2コーナーで我慢が利かなくなったゼロスが飛ばして逃げる形で1000m通過59秒1。馬場を考えれば当然のハイペースで、案の定先行勢は崩れた。人気を背負ったグランデッツァ、ワールドエースがともに後方2、3番手を追走し、展開的にも順当に決まるかと思われたが、さらにその後ろ最後方でじっとしていたのがゴールドシップだった。
前走の共同通信杯ではそれまでとは違う先行策で息の長い末脚を使えることを証明していた。ゆえに、追いこみを決めることが難しい中山コースにおいてここまで肝の据わった作戦を実行したことに驚いた。しかし、本当に驚くべきところはもっと先にあった。荒れた内を避けるように有力馬が外へ外へとコース取りする中で、ゴールドシップは一頭馬群の内に突っ込んだ。末脚を削がれるか否かのまさにギリギリの馬場を通って仕掛けられると、直線に入った時には3番手に上がっていた。とても2ハロン前に最後方にいたとは思えない絶妙なコース取りで、直線に向いた時点で勝負あった。
おそらく見ていたほとんどのファンはこのコース取りの巧さに感服したことだろう。ただ、私はそれ以上に、内田騎手がまだ1戦しか手綱をとっていなかったゴールドシップの特徴を完璧に抑えていたことにより感心した。スパッと切れないかわりに長くいい脚が使えるのがこの馬の長所だが、小回りの中山コースでは短所になりかねない。しかし、内田騎手は3コーナーに入るか入らないかのところでエンジンをかけ、コーナーで目一杯にアクセルを踏んでトップスピードに持っていくことに成功した。
映像を見ればわかるが、ロスを覚悟で外目を回りながら徐々に仕掛けていった他馬と、ロスの少ない内目をマックススピードで進出したゴールドシップとでは、コーナーでの有利度が明らかに違う。多少荒れていたとしても、本来なら短所になる部分を転じて生かすことで、内を通ることで得るアドバンテージを最高に大きなものにした。この鞍上の判断は、近年稀に見る最高の騎乗と言える。とにかく絶賛してもしきれない素晴らしいレースを見せた。
元来広いコースでこその馬なので、当然広いコースに変わるダービーは合う。距離も伸びてこその馬で、普通ならダービーも決まりと言って過言でない。オルフェーヴルと同じステイゴールド×メジロマックイーンのラインは、大舞台での底力に加え、少々のことではへこたれない精神的な強さがある。総合力を問われる展開でこそ良さが生きる血統で、これからも大物を輩出するであろう。
馬群の大外を回らされた2着のワールドエース。スタート直後にマイネルロブストに触れて躓くアクシデントがあったが、すぐに自分のリズムを取り戻したので大きな影響はなかった。勝ったゴールドシップと同じくこの馬も長く脚を使えるが、小回り適性に大きな差がある。重心が低く大きなフットワークが持ち味の馬なので、器用に回ることができず、結果的に勝ち馬とはコーナーワークの差がかなり大きくなってしまった。それでいて最後しっかり脚を伸ばして2着を確保するのだから、あらためて能力の高さを示したといえる。広いコース、長い直線と条件が好転するダービーは当然勝ち負けが期待できる。
ところで、なぜワールドエースを内に入れなかったのかという声が聞かれたが、前述の通り大跳びの馬なのでゴールドシップとは器用さに差がある。もし内に突っ込んでいれば走りのバランスを崩して伸びを欠いただろうし、外に膨れて他馬に迷惑をかけていたかもわからない。位置取りが位置取りだけに大外を回らされてしまったのは仕方ないし、むしろ外を回したからこそ最後まで脚を伸ばせた。少なくとも今回の福永騎手はベストの騎乗だった。
3着のディープブリランテはこの速い流れでもまだかかっていた。スタート後の歓声でかなり馬がヒートアップしていたし、この燃えやすい気性をどうにかしない限り、今後も距離延長の不安がつきまとうのがなんとも難しい。首をうまく使い、跳びが大きい割に掻きこむ力もあるので、競走馬としてこんな万能な走りができるのは大きな武器なのだが、内面を強化できないと信頼しづらい現状。今後の成長は陣営の腕の見せ所である。
弥生賞を勝ったコスモオオゾラも力を見せたが、鞍上のコメントにもあった通りもっと水分が残ってほしかった。それでも力は発揮できているし、この条件で安定して走れることも証明した。持久力を問われる展開になれば出番は十分だ。個人的な印象だが柴田大知騎手はあらゆるサイクルがすごくうまくいっていて、GⅠの舞台でも全く臆するところがなかった。まだまだ活躍してくれそうで頼もしい存在である。
最終的に1番人気になったグランデッツァは、パドックでもひと際目を引く好馬体だったが、大外枠で終始外を回らされたこともあってか前走のような伸びを欠いた。ただ、総合力を求められた今回の皐月賞において、完敗に等しいこの走りでは、父アグネスタキオンの名を口にすることは許されない。GⅠでも活躍できる素質があることは間違いないが、もう少し力そのものをつけなければ、逆転は難しい。
グランデッツァと微差の6着だったサトノギャラントも、1、2着馬とは差があったが、上位勢と遜色ない力を持っていることは証明した。荒れた馬場もこなせるがパンパンの良馬場でこそ切れ味は活きるだろうし、ペースが上がった時にもたつく場面もあった。血統的に断言はできないが、距離が延びても大丈夫ではないだろうか。
一発を期待したシルバーウエイブはこの大舞台においてもまだ気持ちが入っていなかった。15着という着順の割に決してバテたわけではなく、追いかけ続ければそのうちドカンとかましてくれそうな雰囲気がある。現状では精一杯だったかもしれないが、心身ともに成長してくれば楽しめそうな馬。
シンガリ負けを喫したアダムスピークは、はっきり言って当然の結果。弥生賞の回顧で危惧したとおり、完全に闘争心が消えていた。道中はディープブリランテに並ばれるとパニックになってかかる素振りを見せていたし、4角で内外から他馬が来るとレースを投げてしまった。潜在能力は世代トップクラスのものを持っているだけに、残念なことになってしまった。
馬体そのものは一度使われてよくなっていたが、一週前追い切りでジェンティルドンナにちぎられた調教にも疑問を持った。レースを使いながらの方がいいのか、休ませた方がいいのかは馬自身に聞かないとわからないが、復活にかなりの時間がかかるのは火を見るよりも明らか。間違ってもダービーを使ってはいけない。