仔猫たちはスクスクと育って行った。
ミケもすっかりお母さん。
日に何度もおっぱいをあげる姿が見られた。(日に何度も見に行っていた)
ある日の授乳中、ミケのお腹の毛が乳首の回りだけ無くなっているのに気づいた。
後になって、妊娠すると乳首周りの毛が抜けると知ったが、ミケは頑なにお腹周りを触られるのを拒否していたので、気がつかなかった。
私達にはお腹を触らせてくれないミケも、仔猫たちにはされるがまま。当たり前か。
そのうち仔猫たちは、私がミケにあげていたカリカリに興味を持つようになった。
すでに歯は生えていたが、喉に詰まらせたら大変と思い、できるだけカリカリを彼女たちから遠ざけたのだが、ミケが食事するときにどうしても割って入って来ては一緒に食べてしまう。
なので仔猫用のカリカリを購入して、そちらをあげた。(でもどうしても大人用も食べちゃう)
次第に仔猫たちはチョロチョロと動き回り始めた。
これまでの行動行動範囲は、自分たちが生まれた段ボールハウスと餌場のほんの1m前後だけだったが、気づけば隣家の裏庭、というか廃材置き場を縦横無尽に走り回っていた。
廃材があちこちに置いてあるのでゴミ置き場と勘違いしたのか、観光客(たぶん)が投げ捨てて行ったペットボトルやプラスチックの袋が散乱していたし、何かよくわからないケーブルもあるし、どういう訳か地面に瓦屋根がドーンと横たわっている。
冬場に私が段ボールハウスを設置したときは、まさか仔猫がここに住み着くなんて思っていなかったから、段ボールハウスの周辺のみ、ほんの2㎡四平ほどだけ片づけたが、裏庭全体の片づけとなるとかなりの大仕事だし、ハッキリ言ってやりたくない。
そもそもうちが借りている場所ではないし。
しかし無邪気な仔猫が歩き回るにはあまりに危険すぎる環境なので、事情を知った近所のSさん(動物好き)と私で、結構頑張って片づけた。
と言ってもあくまでよそ様の土地なので、放置してあったものの場所を移動するにとどめたが、雨水がたまっている側溝や、仔猫が迷い込んだら抜け出せなさそうなよくわからない機械のすき間を、放置してあった板で蓋をした。
仔猫たちはよく、地面に横たわっている屋根と地面の間に入り込んでいた。
ときおり仔猫の姿が見えなくて心配なときは、たいてい屋根の下を覗くと、奥から恐る恐る出てきたものだった。
ある晩、出先から戻った際に、ミケたちの段ボールハウスを覗いたら、誰も入っていなかった。
いつもならこの時間は、ミケは外出していても、仔猫たちは箱の中で寝ているのに。
もちろん屋根の下も覗いてみたが、いないようだ。
妙な胸騒ぎがして、探しに出た。
仔猫の足なら、行けるとしてもせいぜい裏山くらい。
裏山に向かって、ニャーと鳴き続けてみたのだが、今思えば完全に不審者である。
すると、かすかながら仔猫の鳴き声のようなものが聞こえてきた気がしたので、そのまま目を凝らすと、裏山の中腹あたりにミフィとミニーが見えた。
降りたいのか降りたくないのか、私の方を見て、キューと鳴いている。どうにかして下してあげたいが、夜だから足元がよく見えないし、そもそもそこは立ち入り禁止だし、どうしたものか。
すると、どこからともなくミケが現れて、ミニーの首根っこをひょいと咥えて、さっそうと山から下りてきた。
そしてそのまま自分たちのねぐらへミニーを運び、その後ミフィを同じように運んで行った。
おお、これ、写真や動画では見たことあったけれど、本当に母親が子供の首根っこを加えて移動するんだ!
それ以来、度々仔猫たちが裏山でじゃれて合っていたり、ミケが仔猫たちを運ぶのを見かけた。
どうやらこの時ミケは、子供たちに狩りの仕方を教えていたらしい。
時には自分の尻尾を左右に素早く振って仔猫たちに追わせたり、甘噛みの加減を教えたりもしていた。
人間みたいに育児書なんてないけれど、子育ての本能がしっかり備わっているのを目の当たりにして、動物の偉大さに感服した。