今日はなろう小説の話だ。
とりあえず、下URLのSSを読んでほしい。
異世界にチート能力持ちで転生してきたハーレム願望を持つおっさん主人公が、奴隷ハーレムを作ろうとしたところ、奴隷少女を哀れに感じ、救おうと奔走するストーリーである。
俺「異世界来たァ!奴隷ハーレム作り放題だぜえええ!」
http://blog.livedoor.jp/goldennews/archives/52086095.html
なろう小説の話とか言いつつ、思いっきり5chSSを載せてしまったが、おそらく作者もなろう小説を意識して書いていると思うので、なろう小説というていで進める。
内容を踏まえた話になるので、読んでおらず、かつネタバレが嫌な方は注意。
僕はこのSSが、なろう小説の王道であると思う。
ストーリーを要約すると、以下になる。
元々はハーレムという下卑た願望を持っていた主人公が、いざ買おうとした奴隷少女を救いたいと思う。彼女を救おうと奔走し、その過程で「他者を思いやる気持ち」を知り、「チート能力」を失う。
他者を思いやる気持ちを得るという、物語の主題が、チート能力を引き換えに達成されているところがポイントだ。
奴隷少女は貴族の恨みを買っており、貴族に雇われた大陸最強と言われる剣士すらも少女の命を奪おうとしてくる。
主人公は少女を守るために限界を超えて剣士を打ち倒すのだが、(アツイ!)その代償としてチート能力を失ってしまう。
以下は、ラストシーンである少女の結婚式の引用だ。
奴隷商人「それより、どうしたのさ」
俺「……俺の力は全部、もらいものだったんだよ」
奴隷商人「へえ」
俺「驚かないのか?」
奴隷商人「まあ不相応な力だったし、そんなところだと思ってたさ」
俺「ずばずば言いやがって……」
俺「……とにかく、それが全部なくなっちまったんだよ」
奴隷商人「ふうん、そうかい」
俺「終わりだ終わり、ぜーんぶ終わりだ。助からなきゃよかった」ハァ
俺「せっかく転移してチートもらって気分よく無双してハーレム作れるはずだったのに」
俺「性格と要領の悪いクズが残っただけじゃねぇか」
俺「せめてステータスさえあればいくらでも稼ぎようがあったのに、剣と一緒に壊れやがって」
俺「こんなんでこの超ハードな世界で生き残れるわけないだろうが」
奴隷商人「…………」
俺「……どうでもよさそうだな」
奴隷商人「どうでもいいじゃないか、たまたま拾ったもの失くしただけなんだから」
俺「他人事だと思いやがって」
奴隷商人「……それに、昔のお客さんは知らないけど、今のお客さんがクズだとは思わないけどね」
俺「適当におだてやがって」ハンッ
奴隷商人「随分と拗ねてるね……」
物語の主題を示す、印象的なシーンだと思う。
昨今流行っているなろう小説のチート能力は、所詮もらいものでしかない。
例外もあるかもしれないが、本質としては同じものだと思う。
(例えば現実世界でのネットゲームでレベルが高いため、ゲーム世界に転生した時高いレベルで始められるというものが見られるが、現実でのネットゲームは娯楽、現実逃避の領域を出ない。その成果として、圧倒的な強さやハーレムが手に入るのはバランスが取れていない、と私は考える。)
能力や実力は、自分自身で手に入れるものだ。
不相応なものがいきなり入っても、自滅するか、その代償で苦労させられるものだ。
しかしなろう小説には、基本そういった教訓がない。事実もない。
読んでいて気持ちよくなる理想のみが語られている。
それを好む気持ちは分かる。この作品のようなハードな展開は、読んでいて疲れる。
「眠る前に軽く目を通して、明日の仕事のために英気を養おう」
などという気持ちで読めるものではない。
だが、物語の面白さは、やはり、苦労して苦労して、後悔して傷きながら、「失っていた、あるいは持っていなかったもの」を手に入れるカタルシスではないのだろうか。
そしてそれが王道と呼ぶべきものではなかろうか。
そういった観点から見ると、このSSは綺麗な王道だ。
ハーレム願望にまみれていた男が、奴隷少女の結婚相手としてから身を引くのも見事だ。
手に入れないから、手に入る。
そういうものもある。そしてそういうものが、一番大事なものだったりする。
最後に、自分が気に入っている主人公の台詞。
俺「いつもさ、そうなんだ。前の世界でも、勉強とか必死に頑張っても、過去問もらってる奴らには敵わないし……部活だって、恋愛だって、何一つ上手く生きやしなかったんだ」
俺「この世界でもさぁ……!」
おそらくこの主人公は、現世でそれなりに頑張って生きようとしていたが、才能、運、環境諸々に恵まれず拗れていったのだろう。
個人的な話だが、僕はこういう人間がとても好きだ。
拗れて拗れて、それでも諦めずに立ち上がっていく話がとても好きだ。知っていたら教えて欲しい。