DreamQuest -2ページ目
俺は、なんとなく二人の
会話を聞き流し、デッドの
気配を探してみたが、
全くわからなかった
気配と言っても
音や声がする方向という
だけのものだが、
音らしい音は何も
聞こえてこないのだ
「なんか静かですよね?」
「そういえばそうね…」
「ゴキ軍団にやられちゃったん
でしょうか?」
「さすがに、それは無いと
思うけど…」
「蒼、デッドは?」
「普通に生きてるが?」
「俺はどこ?って聞いた
つもりなんだけど?」
「だったらどこ?まで
言ってもらわないとわからんぞ?」
「今度から気を付けるよっ!」
俺には蒼が、
真面目に返答してるのか
良く分からない時がある
恐らく、全部真面目に
言ってるんだろうとは思うが
正直たまにイラッとさせられる
「お二人はとっても
仲良しなんですね」
少女は尊敬のまなざしで
俺の顔を下から
覗きこむように見ていた
「えっ?」
俺は少女が何を言ってるのか
よくわからずにいた
「ガイドが蒼君みたいに
感情豊かなのは稀で珍しいのよ?」
サトコさんは
通りすがりの独り言のように
俺にしか聞こえない程の
小さい声でボソっと
言いながら俺の横を
足早に通り抜けて行き
クルリと振り返って
「早く行きましょ」
と笑った
(前も似たような話を
聞いたような気がする
言いたい事言って
ぶつかって、イラついて
それは普通のガイドを
持つ人から見たら、
羨ましい光景なのかな…)
俺は少女の方を見て
「そうなのかも」
と笑いながら答えた
「私もがんばろっ」
少女はニコっと笑って
サトコさんの隣まで
走って行った
おれは何となく
モヤモヤしてたのが
消えたような気分になって、
自然と蒼の隣に行っていた
蒼は寄ってくるゴキを
手で払いのけていた
むしろ、払い除けて
くれていたと
言うべきかも知れない
蒼にとっては
単に仕事とか役目とか
そうするようにプログラミング
されているだけ…という
ものなのかも知れない
だけど、俺にはそんな事は
どうでもよくて、
当たり前になりつつある
この時間や空間が、
何となく心地よく感じていた
私は強くなりたかった
抑え込む力、引き裂く力に
抗える程に…
傷つける言葉、突き刺さる悪意に
耐えられる程に…
蔑む快感、嘲る快感、奪う快感、憐れむ快感
そんな幻想を一瞬で無意味に
変えてしまえる程に…
苦痛、悲しみ、恨み、憎しみ
私の中に溢れ溜まってゆく
どうしようもない愚かさを
全部解放してやれる程に…
私は強くなりたかった
私は強くならねばならなかった
その後、俺達は洞窟を
進みながら寄ってくる
ゴキ共を適当に叩き落として
誰かが居そうな気配のする
方へ急いだ
走っていると、とても
大きく立派な槍を抱えて
壁を背に立っている少女が居た
俺は、またしてもとっさに
スリッパを後ろに
隠していた
少女は俺達に気が付いて
話しかけてきた
「あっ!みなさん
私、槍だせましたよ」
そう言いながら
立派な槍を両手で握って
俺達に見せるように
前に立て掛けて
嬉しそうに笑っていた
「よかったわね」
サトコさんは、そう言ったが
俺は何も言えず黙っていた
「みなさんは?」
そう言って、首を傾げる
少女に、サトコさんは
俺に見せたように
自分の武器を胸のあたりに
無言で出して見せた
少女はそれをみて、
そして次に俺を見た
サトコさんも自分の武器を
出したままのポーズで、
顔だけ俺の方を向けた
蒼も俺の方をじっと見ていた
俺は3人の視線が痛かった
(うわー3人揃って、そんな
期待に満ちた目で見ないでくれ~)
俺は、仕方なく後ろに回してた
手を前に出した
少女は、穴があくほど
俺の手にあるスリッパを
眺めていた
俺はきっと大爆笑される
だろうと思っていた
しかし少女は意外にも
クスリともせず真面目な
顔で言った
「みなさん、場所と敵に
合わせた武器って感じで
いいですよね~
私の武器、とっても
重いですし、大き過ぎて
動かすと、あっちこっちに
ガンガンぶつけてしまって
うまく戦えないし、
あっちこっちにぶつかる
振動や反動が結構な
ダメージで…
結局、真ん中ぐらいを
持ってペチペチ叩くのが
精いっぱいなんです…」
少女は大きなため息を
ついていた
「槍が嫌なら捨ててもいいのよ?
あなたは、それを持っている限り、
武器としては、それしか出す事も
使う事も出来ない、
私達は常に1から自作しなければ
いけないけど、そのかわり
武器を変える事ができるわ」
サトコさんがそう言うと、
少女は取られそうになった
人形を抱きしめるかのように
槍を抱きしめた
「私は槍でないと駄目なんです
だって私はアテナですから」
そう言いながら少女は、
思いつめたような目をした
「あなたの好みや事情に
口を出す気は無いの
ただ、知識として
知っておいてというだけ
それにあなたの武器は
他にもあるのだしね」
サトコさんがそう言うと
少女は黙ってうなずいた
「おっ、ここにいたのは
タツヤ君か、どんな感じ?
かなり倒してるんじゃない?
うまくいったのかな?」
「えっ、あの、その…」
俺は何ていえばいいのか
言葉が見つからずにいた
「タツヤは武器を作れたぞ」
(蒼、頼むから余計な事は
言わないでくれ~)
「あら?結構早かったね
どんなのが出てきた?」
俺は恨めしそうな目で
蒼を睨みながら、後ろに
隠した手を無言で前に出した
「なかなかいいセンス
してるんじゃない?」
サトコさんが、ソレを見て
思ったほど驚きも笑いも
しないのが不思議だった
(本当は爆笑したいのに
俺に気を使って笑いを
こらえてるんだろか?
でも、笑いたいのを我慢
してる感じではないよな?)
「え~っと、コレの
どこらへんが…?」
(俺は情けなくて涙が
出そうなんですけど…)
「ん?想像や空想という曖昧な
ものより、現実の記憶や体験で
知ってる形が優先されるのは、
ある程度は仕方が無いよ?
でも、一番重要なのは
その場で最も適した形状だと
思われるものを
自分で作りだせる事だから
とりあえず、これで上等だと
思うけどね?」
「そんなものなんですかね…」
「タツヤ君と蒼君で
どっちが多くゴキブリを
退治できるか、競争したら
勝てるんじゃないかな?
蒼君の刀は、ここで
振りまわすには狭過ぎだし、
刀は長さがあるので、
振り回すにはロスが
大き過ぎるのよ」
「そんな競争で勝っても…」
俺はスリッパを握りしめながら
特別酷い結果だったわけでも
なさそうな事に内心ホッとしていた
「サトコさんの方は?」
俺の問いに、サトコさんは
長細い短剣のようなものを
俺にチラっと見せてから
顔を近づけてきて、小声で言った
「私は、前にやってるから
この身体でも同じ事ができる
ようになりさえすれば
いいだけだったからね」
そう言うと、照れたように
笑っていた
「他の人の様子を
見に行ってみようか?」
俺は、みんなにスリッパを
披露するのに、まだ抵抗が
あったが、なるようになれ
という気分だった
その時、蒼が真剣な顔で
話しかけてきた
「おいっ!」
俺とサトコさんは揃って
蒼の方を見た
「すりっぱってそんなに強いのか?」
俺は何て答えたらいいのか
わからなくて悩んだ
サトコさんは、後ろを向いて
クックッと変な声をあげて
肩を震わせていた
どうも今回は笑いを
こらえきれなかったみたいだ
「オマエら!何故肝心な事を
言わないでいるんだ!?」
「蒼…肝心な事など何も無いから、
何も言えないんだって…(汗)」
(素直に履物だとか答えて
やればよかったのだろうか?
言えば言うほど、蒼には
わけがわからなくなりそう
だけどな?)
俺には、蒼を納得させられる
説明ができる気がしなかった
サトコさんは振り返って
「今度、詳しいデーターを
転送してあげるよ、
覚えていたらだけどね!」
そう言いながら笑っていた
きっとサトコさんは、
忘れる気満々のような気がする
俺は、顔などにも容赦なく
飛びかかってくるゴキ共を
腕を振って一気に払いのけた
とりあえず、まとわりついて
いた奴らを全部払った次の瞬間、
俺は蒼の真似をして手で
何かを握る動作をしてみた
一瞬、何かを本当に掴んで
いる感触があったような気がした
(今、何か手の中に感触が?)
それを直ぐに思いだそうと
したけれど、ゴキ共は、
俺が思いだすのを悠長に
待っててはくれなかった
(くそ、もうちょっとだったのに)
俺は上半身に張り付いてくる
奴らを腕で払いのけたら、
顔に向かって飛んできた奴を
拳に力を込めてたたき落とした
ソイツは俺の手に当たる
前に思いっきり地面に
叩きつけられて消えていった
俺は何かを確かに握っている
感触があった
俺は恐る恐る手に掴んでる
モノを見てみた
(こ、これは…)
蒼も全身にゴキブリを
貼り付けたまま、俺の手の中の
モノを覗いてきた
「ほぅ、武器が出せたじゃねーか」
「蒼、それは嫌味で言ってるか?」
「なぜ嫌味など言わねばならない?」
「こんなもの、どうみても、
武器じゃないだろう!?」
「それが武器じゃない?
だったらそれは何なんだ?」
「これは、ただのスリッパだよっ!」
「すりっぱって何だ?」
蒼、ひょっとしてスリッパ
知らないの?」
「ソレは、知らないと何か
問題があるほど凄いモノなのか?」
「いや、知らなくても
何の問題もないけどね…」
俺はスリッパを握りしめて
殆ど、途方に暮れている感じだった
(蒼は本当に知らないんだな…
しかし、これから先俺の武器は
スリッパです!って嫌すぎだろう…
でも、ゲームのボスみたいな
凄い敵がいたとして、ソイツが
スリッパに倒されるってのは
屈辱的でいいかも?
いや、やっぱりスリッパを
構える自分の姿なんて
想像もしたくないな…(汗))
とりあえず、仕方が無いので
俺は、半分ヤケクソで
そのへんにいるゴキ共を
片っぱしからスリッパで
叩き消していった
蒼が動いている様子は
無いのに、ゴキ共の減りが
早いような気がする
(近くに誰かいるのか?)
直ぐ目の前で、俺は触れても
いないのにゴキが2匹、
ドサッと落ちて消えた
うっすらと暗がりから
現れたのはサトコさんだった
俺は、手に持ったスリッパを
思わず後ろに隠してしまった

