〈血のついたパジャマ〉


血のついたパジャマ
散乱したティッシュ
山積みの吸殻
地下100メートルの部屋
萎縮した世界
僕は僕以外の世界を知らない
僕以外の世界があることは分かるが
それがどのような世界であるのか
具体的に思い描けない

臨港パークで飲む氷結ストロング
ボヤけた目に映る黒い海
滲むベイブリッジや火力発電所
工場地帯のライト
芝生に寝転び見る夜の空
松の木と紺色の空が重なって見える
目の前では制服を着た高校生の集団が
いちゃいちゃしている

西口のマクドナルドの前に立つ青い髪の若い女
たまたま僕と目が合ったら話しかけてきた
いわゆる立ちんぼだ
僕は何も出来ずにその場を立ち去る

ビブレ脇の通路の縁に腰掛けて
タバコに火をつける
煙を吸い込む
痛みが全身に走る
末期の痛みだ
僕の骨はあちこちズレている
古傷が痛む
憂鬱だ 憂鬱だ
ラップの練習をする若者の集団
サウンドトラックの音が周囲に響き渡っている

深夜の牛丼屋
バイトの色の浅黒い外国人の若い女の子
目付きが鋭い
目がその人間が置かれた状況を物語っている
仕事帰りの水商売の女に寄り添う男
ジャージを着たチンピラの集団
会話を聞いていると
本当にしょうもない 薄情なチンピラであることがわかった
誰かを潰してやると吐き捨てていた
寝てしまった仲間は店のまえに捨てられていた

西口の駅の前に毛布を敷いて座り込んでいるホームレス
その前を素通りする サラリーマンやOL
彼は完全に思考を奪われてしまっている
ガラケーを覗き込む看板持ちの脇を素早く通り過ぎ
路地裏に入り込む

ラブホ街のビルの駐車場の喫煙所
コーヒーのカップを持って灰皿の前に立つ
ホテルに入っていく意味ありげな60くらいのおっさんに20代の若い女の子
僕はタバコに火をつける
ホテル街中に響く生々しい喘ぎ声が
抑圧された日常生活を物語る
彼女にとって唯一の抑圧からの解放手段はセックスだけなのか??

血のついたパジャマを着て
ワンルームの薄暗いキッチンの前に立ち
ただタバコの煙を吸い込み 吐き出す
もはや僕にはそれ以上のことをする気力がない
僕は支配されている 僕は抑圧されている
僕は異民族だ 僕は孤独だ 僕は怒りに満ちている 怒りの感情が発作のように胸から頭に昇っていく 地下100メートルの薄暗い部屋で

僕は格闘する 僕の心を支配しようとする奴らと
または自分自信の弱い心と
爽やかに始まった一日も 数時間後には
すぐに血塗れの死闘になる
息をつく暇もない乾いた砂漠とコンクリートに響く乾いた銃声
ひたすら痛みのみを感じ 生まれてから一度も幸せなど味わったことがないような錯覚に陥る

生まれてからずっと色彩の乏しい乾いた砂漠の中の息の詰まるような真空の戦場でナンセンスで無意味な血塗れの闘いに明け暮れてきたような…

僕の思考は逆回転で回っている
僕は異民族だ
僕は時々頭がおかしくなりかける
しかし僕は完全に正気を失うことはない
正気な自分が冷静に狂った自分を見つめている
この世には本当に狂った世界が存在することを知った
人を狂わす光と音 気が狂いそうだ
正気を失いかける あいつらは狂ってしまった
なんてことだ…
完全に狂った人間はもはや自分が狂っていると認識することもない
いや 認知機能だけが正常な場合は自分が狂っていると知っていながら狂っているものだ
手のひらに積まれた数種類の向精神薬で自分の狂気を眠らせる
狂気が眠れば 安らかに眠れる
山盛りの粉末の胃薬で薬物を全身に巡らせる
目を閉じる 朝になり日が昇る
テントのファスナーを開ける
季節外れの蝉の声が聞こえる
少し冷たい外気
頭の中も冷えている
地面の白い砂と平べったい緑の木が生えた白い山にかかる霧 とても立体的だ
蟻が動いている 蚊取り線香の匂い
上半身を起こす 肌が焼けている      
少し砂がついている タバコを取りだし火をつける
煙を吸い込んで吐き出して白い山を見上げると自然が真実のありのままの姿をさらけだしている
昨日のロシア人の旅人はもういない
そういえば彼は今朝早く僕のテントの外から僕を起こそうといていた
僕は朦朧としていた…