〈コップ一杯のラムコーク〉


その日僕は何ヵ月も砂漠の中をさ迷ったかのように カラカラに乾いていた

潤いを失った 心と体

ジャズ喫茶ダウンビートに駆け込んで
コップ一杯のラムコークを頼んだ
ジーンズメイトで買った安物のダウンジャケットを脱いでバッグと共に脇に置いて
タバコを取り出すと火を着けた
アメリカンスピリット
煙を深く吸い込んだ
マスターはラムコークに合わせてサルサのような音楽をかけてくれた

ラムコークが運ばれてくる
一杯口に含んで 喉に流す
多少薬臭い味がしたけれど とてもアナログで生々しい甘さが広がった
灼熱のインドでライムの入ったサトウキビジュースを飲んだときのように
コンクリートに吸いとられた生気が戻ってきた
何回かグラスを口に運ぶと みるみるうちに心が踊ってくる

魔法のカクテル
浮かんだ輪切りのレモン
サルサのリズム メロディ
そしてラムコーク
ジャズミュージシャンの絵が飾られたスモーキーで薄暗い部屋

コンクリートのジャングルでの死闘の日々
氾濫したデジタルな刺激の数々に曝されて失った生気

酔いがまってくる
何本もタバコを吸う
心は水分を吸い込んだスポンジのように弾力を取り戻す
メロディをリズムを吸いとる
吸いとられたメロディとリズムは血中に入り込み 全身を流れる

知覚の扉が開き 世界は無限に広がる


3.12.2017