16


俺は、躊躇していた。



詩子との時間は、楽しく過ぎて行く。



いま俺がそんな話をしたら、間違いなくこの雰囲気が壊れてしまう。



そして、もしもその話をしたら……もう詩子には逢えないのではないか?



そんな不安が、俺を包んでいた。



無理に理由を訊く必要はないかもな……。




時計の針は、いつの間にか午前0時を回っていた。



俺は、歩いて家まで帰れる。


それに、絢音には遅くなると伝えておいた。



でも……。


詩子は、大丈夫だろうか?



あの夜、あの時間に駅前に居たということは……。


当然、詩子はこの近くに住んでいると思っていた。



でも、本当にそうなのだろうか?



俺は、何となく悪い予感がして詩子に尋ねた。



「なぁ、詩子ってさ……家は、この近くなんだよね?」



詩子は小首を傾げたあと、その首を左右に振った。



えっ?


俺の予感は、当たっていた。



「っていうか、詩子って家どこなの?」


「うん……鎌倉……」



どう考えても、終電は終わっている。


ケータイで大井町~鎌倉の終電を調べるまでもない。



「もう帰れないよな、詩子……大丈夫なの?」


「……だって、創さんが一緒だもん。大丈夫、でしょ?」



屈託のない詩子の笑顔を見ながら、俺は心の中で頭を抱えていた。