子供の頃、近所に山野さんというお爺さんが住んでいた。山野さんは木造平屋の小さな一軒家で隠居暮らしをしていた。隠居する前は電気屋さんをしており、ラジオの修理などはお手のものだった。
ある日の夕方、壊れたラジオを直してもらうために、山野さんの家に行った。
「ごめん下さい。山野さん居ますか?
ゼツボウマンですけど、またラジオを直して下さい」
玄関先で呼びかけた。
は~い、ど~ぞ~
家の中から山野さんの声がする。
玄関から中に入り、山野さんの部屋の障子を開けた。
だが山野さんはいなかった。かわりアタッシュケースのようにデカイ、テープレコーダーのような機械が畳の上に置いてあった。
その機械の中には、やはりデカイ、カセットテープのようなモノが入っている。
「山野さん、どこですか?」
呼びかけると、その機械に付いているメーターの針がピクピク動いた。そして機械のスピーカーから山野さんの声がした。
「目の前にい~る~よ~」
さては、山野さんは何処かに隠れていて、トランシーバーを使ってイタズラをしているのだとピンときた。
でもこの狭い部屋の何処に隠れているのだろう?
押し入れとトイレを覗いてみたが、山野さんは見当たらない。
「山野さん、ふざけてないで早くラジオを直して下さい 」
またメーターの針がピクピク動いて、スピーカーから山野さんの声が流れた。
「だ~か~ら~目の前だよ~ラジオはそこに置いといてよ~」
山野さんはイタズラを続けるつもりらしい。
それにしても大きなテープレコーダーだ。
山野さんの発明だろうか?
マジマジと機械を観察していると、いきなりテープが高速回転を始めた。メーターの針も激しく揺れる。
ギュルルルルルー
遂にテープが機械の中でぐちゃぐちゃに絡まり、メーターの針が折れた。
うわぁぁあああああああああああああああああ~
スピーカーから断末魔のような山野さんの呻き声が轟いた。同時に機械から白い煙りが吹き出した。
ば、爆発するッ!
ビックリして外へ逃げ出した。
走って自宅へ戻り母親に一部始終を説明した。
母親を連れて再び山野さんの家に行った。
不思議なことに部屋の明かりが消えていて、シーンと静まり返っている。
試しに母親がドアをノックしたが応答がない。
「山野さん、もう寝てはるんと違うか?
最近、具合が悪いと言うてはったからなぁ」
安心したような顔で母親が言った。
「ホンマにお前は、訳分からんことばっかり言いさらしてからにッ!」
一瞬で鬼のような形相に変化した母親に、耳をツネられながら帰宅するハメになった。
翌日、学校から帰宅すると母親から山野さんが亡くなったことを教えられた。
山野さんは1週前から入院しており、病院で亡くなったのだ。死んだのは昨晩らしかった。
小さな葬儀が山野さんの家で執り行われた。
御葬式から戻った母親が、僕のラジオを手に下げていた。
「娘さんの枕元に山野さんが立ちはったんや
それでラジオをお前に返せと告げて、ふっと消えたそうやで。死んでも律儀な人やな。善い人ほど早く死ぬっていうのはホンマやな」
そう言って母親は泣いていた。
ラジオのスイッチを入れてみた。
心~ウキウキ~東京~キッド~♪
ラジオから美空ひばりの歌が流れ始めた。
ラジオはちゃんと直っていたのだ。
そういえば山野さんは、美空ひばりのファンだったなと
ふと思い出した。