抗癌剤投与4日経過。 


母に連絡をし、兄夫婦が来てくれている、とのことだったので

15時前に交代するよ、と伝える。

母も疲れているだろうと思ったので

荷物があるのなら別だけれど、後のことはやるから

早く帰って休んでくれーと伝えるが・・・


母も兄と交代で来ることになっていたらしい。


兄夫婦も6ヶ月になる子供と5歳の子供を抱えて良く父の傍に来てくれ、

父を喜ばし励ましてくれている。


母は父が不機嫌になってもちゃんと対応をし、

相変わらず見の世話をきちんとしている。


この人達は・・・ほんっとにすごい。


私が病室へ入ると父はうとうとしていた。


父のベットの横に孫二人が寝ており、

その写真を兄のお嫁さんが撮っていた。

そのまま続けて貰って良かったのに


「あ、今面白写真を撮っていたの。」と言い止めてしまった。


この奥さん、とても出来た人である。

兄が仕事で自宅に帰れないことも多々ある中、

二人の子供を抱え、自分も仕事をし(今は育児休暇中)

父のところにも最低週二回来てくれる。


・・・一人は六ヶ月にも関わらず・・・ほんっとに良くやってくれる人である。


父の横でちょっと泣き出した下の子(6ヶ月)を

父が寝ぼけながら下の子をポンポンとあやす。


私は自分の荷物を置き、いつもありがとう、と伝える。

私は兄と仲が悪いだけに何て声をかけて良いのか分からない、と言うのが

正直な感想である。


ううん、何を言って居るの、と返答してくれる。

そっけない感じも受けるが、この人なりの温かさを持ってる。


父は私が来たことだけを目で確認し、そのまま寝続けた。

その間に花瓶の花の茎を切り、花の水を変える。

その間に兄のお嫁さんが入ってきて


「あ、花瓶のお水替えた~。」と言ってくれ

「あ、ごめん!!だぶっちゃったね!!」と返事をすると


「うんん。茎切ってなかったからちょうど良かった。」と言ってくれた。


その後暫くして兄夫婦はとりあえず実家に帰る、とのことで

私と交代をした。


母は病院に居るのかと思い連絡をすると自宅に居た。

兄夫婦と交代で出ることになってたのよー、とのこと。


母が来るまで父の傍で私は父を見ながらイヤフォンをして音楽を聞いていた。

その間に我が家の犬の写真をペタペタと父が見えるところに貼り付ける。


父は動物が大好きだ。


実家にも11歳になるMIXの男の子が居る。

その前にもMIXの女の子がおり、父自身小さい頃から

シェパードやらなんやらとなんだかんだと犬を飼い続けている人だ。

実家の犬の散歩も毎日していた。

我が家でも一日だけ私と旦那(と言っても籍は抜いている。)が

留守をした際面倒を看てくれた。


三頭まとめて散歩に行ってくれたのだ。

いつまでもこの生活が続く物だと思っていたが


続かないんだな、と改めて実感してしまう。


18時過ぎ、母が病院に到着。

父に「こんばんわ~」と声をかける。


その姿にちょっと笑ってしまう。


寝かせておけば良いのに、と思うのと同時に

これはこれで二人の形なのだろう、とも思う。


父はその後暫く寝ていたが、母が来たこともあって

突然起き出そうとするので


「トイレ?」と聞くと頷く。


トイレは病室の目の前にある。


起きるのも一苦労の父。

母と二人で手を貸し、父をベットから起こし、

トイレへと誘導する。


起き抜けなこともあって、父はヨタヨタとしている。


私 「外で待って居るから鍵閉めないでね~。」と伝えたのに


あっさりカギをかけられた・・・w


父は父で意識が朦朧としていてもプライドあるのだと言うことは

承知している。

中で倒れなければ良い、私としてはそれだけである。


母には私が待ってるから良いよ、と伝えると

母は病室の中を色々と片付け始めていた。


暫く経ってもトイレから出てこない父。

不安になるがこれは待つしかない。


外から鍵は開けられるようになっている(10円玉などで開けられる)が

開けずに待っていると暫くして中から開ける音がした。


またヨタヨタと歩いて無言で歩く父。

後ろから支えようとするが、下手に手を出して

父の自尊心を傷つけてもいけないと思うので

手を出すタイミングを考えてしまう。


しかし一致してなければいけない。

これが介護で難しいところである。(と私は思う。)


トイレから戻ってきた父はまたベットで横になる。

寝てばかりだった父は体中の筋肉が落ちた。

横になる時も頭の後ろに手を置いて支えないと

ドタン、と倒れる。


「頭の後ろ支えて居るから力抜いて良いよー。」と声をかける。

父の返答なし。

いつもの父らしい、と思うw


父は意識が朦朧としているせいで排泄がうまく出来なくなっている。

パジャマのズボンの前の部分におしっこのしみがあったのを見つけ、

母にそっと伝える。


それがきっかけとなって

ナースステーションで蒸しタオルを数本貰い、

父の身体を拭く。


随分痩せた。筋肉が落ちているせい、というのもある。

が、痩せた。


背中を拭いて、腕を拭いて、下着を取り替える時だけ

私はカーテンの後ろに隠れる。

ここは二人にしたほうが良い。私が勝手に決めたルールだ。


声だけはかけるようにしている。

私 「私、後ろで待ってるから教えてねん。」

母 「りょうかい~」


母も疲れているだろうけれど、笑顔を絶やさない。

父が機嫌悪そうに何かを言っても笑顔で返す。


父の身体を拭いている時に母が冗談で

「ハーレムだわねー。」と言うと父が眉間に皴を寄せて怒った。


「何言ってるんだ!」


母も私も冗談なのでエ!?と思ったが顔にも出さず

「ねー、奥さんと娘の二人で拭いてるのにねー。」と笑う。


父は昔から余計な事はほとんどと言って良いほど話をしない。

ありがとう、もほとんど言わなければごめんな、も言わない。


母はそれで何度となく怒っていたことがあったが

今はそれほど気にしていないようだ。



清拭をして着替えをして、ちょっとすると食事になった。

(食前にインスリンの注射あり)


●本日の食事●

米飯 200G

メカジキパプリカ焼き 70

サラダ菜

煮奴4分の1

小松菜ひたし

ソースパック


・・・ソースパック???w

何に使うのかイマイチ良く分からないソースパックに

父と二人で笑う。

父はなんだろうなーと言う感じでちょっとだけ笑った感じだが

その後はまた朦朧とした顔になった。


食事の前にお茶で口の中を湿らす。

それにしても・・・病院はとにかく乾燥している。

父は唇がかさかさになっている。

私でも数時間しか病室に居ないのに、唇がカサカサになる。

この中で寝ているのは・・・いかがなものか?w


(ちなみに我が家では、乾燥防止に父の口に湿らせたタオルを置くようにしている。

そのほうが口の中が乾かず、父も落ち着くようだ。)


父が起きている間に氷枕を変えたりする、と母が病室から出て行く。


父がうまくソースパックを開けられずに居たので代わりに開ける。


私 「これ、滑ってうまく開けられないよねー。」


で?何にかけるの?と突込みたかったがw父にお伺いを立てる。


私 「ソースパックの意味が分らないけれど、何にかける?」


父は黙って小松菜のおひたしとメカジキを指差す。


えええええええええええええー。お魚にソースかけるのー?と

私は声を出す。


が、


これしかかけるものはないよなぁ・・・と納得し、ソースをかける。


父もそれを見て納得し、食べ始める。


が、が、がだ。

さすがに美味しくは無さそうだw


私 「さすがに美味しくないんでない?大丈夫?」と聞くと

父は首を縦に振る。


まぁ、いっか・・・。と思って父の様子を見ている。

今日はいつものような早食いをしない。


かなり疲れている様子だ。意識もいつもよりかなり朦朧としている。

お茶を持つ手が危なっかしい。


父はとりあえず野菜類を全て平らげ、今日も完食するか!?と見ていると

お茶をお茶碗の中に入れ始め、(これは父のクセで、いつもする。

お茶碗にご飯粒がくっつくのが気になるらしい。)

湯のみがお茶碗の中でお茶に沈んでしまっているのだが

父は手を動かせないらしい。


少し見守っているとゆっくりとまた手を動かす。


今日は本当に疲れている。


その後、いつもならご飯粒を一粒も残さないのに、今日は少し残した。


「もう、良いや。」とだけ言った。



膵臓癌の抗癌剤は他の抗癌剤よりも副作用がとても少ないと言われている。

が、抗癌剤は抗癌剤だ。父もかなり辛い様子が見て取れる。



私も抗癌剤を受けたことがある。

私は副作用が強く出た為、何度か中止となった。


例えば月曜日、抗癌剤を受ける。その日は当然の如く調子が悪くなる。

火曜日、抗癌剤を受けているわけではないのに嘔吐、発熱、疼痛が出る。

水曜日、これがまた続く。気持ちも落ち込んでくる。寝ていることも苦痛である。

安定剤やらなんやらで無理矢理眠らされて体力を回復する。

木曜日、発熱がまだ続く。発熱、疼痛などが少し楽になる。

金曜日、上記に同じ。

土曜日、日曜日で身体が少し楽になる。気分も良くなってくる。


このまま大丈夫なのではないか?と思う。

次の抗癌剤は大丈夫かもしれない、とも思う。


がまた次の月曜日。同じような苦痛が襲ってくる。


これの繰り返しなのだ。

本人がそれなりに意識を持って過ごす日にちが一週間のうち二度だけ。

あとの日数は意識朦朧の中過ぎる。日にちがいつだかも分からなくなる。

何日寝ているのか、昼夜さえも分からなくなる。食欲などゼロである。


父もその状態に近いのだろう。

それなのに父はこの数日、検査などで麻酔や他の薬を使っていても

どんな状況でも食事だけは残さずに居た。それだけでもすごいことなのだ。


その父がさすがに今日は疲れたのだろう。残した。

少しショックだったが、本人が一番ショックに違いない。


食事を終え、歯磨きなどを終え、一度横になった父。

暫くするとまた立ち上がろうとするので声をかけ聞くが

応答しない。がとにかく立ち上がろうとする。


「歯磨き」「ブラシ」

目の色を変えて怒っている。


歯磨きしたよ?どしたの?と言っても返事をしない。

とりあえず歯ブラシに歯磨き粉をつけて渡すが違うらしく

また目の色を変えて怒っている。


ワカランーと思ったがハッと思い直し

「つまようじ?」と聞くと頷く。


母に爪楊枝を取って貰い、父に渡すとまたまた目の色を変えて

怒りながら

「お前あれ、捨てるなよ!!」と言う。


いつも胸ポケットに入れている爪楊枝のことらしい・・・。


あぁ、さっき着替えたもんねーと思い


「お父さん、さっき着替えたからだよー。気をつけておくからね。」と伝える。


母は後ろで

「やっさしー。」と私に笑いながら言う。

父の言い方があまりにキツカッタので母はジダンダを踏んで

「コノヤロー」とも言っていたw


私はこの母の姿が結構好きだ。コミカルで可愛いのだ。


その母に

「だって私、ウソモノの看護師だもーん。」と伝えるw

(学校にだけ行ったマサニウソモノの看護士なのだ。)

二人でケタケタと笑う。


父は爪楊枝を手に入れて、満足し、またベットに横になる。

その後、夜の薬を持ってきてくれた看護師が体温、脈拍などを計る。


熱 37度(微熱)

脈拍 120

痛みなどはない、と父が朦朧としながら伝えた。


午後トイレは最低4回行っている。

(兄が一度付き添い、私が二度、母が一度)


排便一回、排尿4回。


20時に飲む予定の痛み止めを渡される。



今日の昼間は血糖がやたらに低く60近かったそうだ。

いつも昼・夜の二度インスリンの注射をする。が昼間は中止。


昼間はあまりに低かった為、ナースステーションにあった

ビスケットなどを食べて貰い、血糖値を上げた、と教えてくれた。



夜の血糖値は220。(いつもと同じ、とも言う。一時よりは下がった。)


本日の薬。(昨日と同じ)


マグラックス 2錠

タケプロン 2錠

ナイキサン 1錠

ノバミン 1錠


20時 メジコン 1錠



19時45分、父は眠っている。

痛み止めの薬を声をかけて飲ませる。


20時面会時間終了の為、声をかけて帰宅する。



明日、私は免許の更新に行く。その後病院。

母はケアマネージャーの人と打ち合わせ。

インスリンの注射の仕方は明後日11時に変更となる。



皆お疲れ様。昨日は寝込んでごめんなさい。


私に出来ることをしていくだけ。それだけだ。

母のフォローも忘れてはいけない。


姉は悪阻の為、本日実家への移動なし。

兄夫婦が母の帰宅を待っていてくれる為、私はそのまま自宅に帰る。


私の旦那も家のことをとてもよくやってくれている。


一人で生きていけない、とはまさにこのこと。

自分が病気になったりすると感じるが、親が病気になっても

改めて感じる。



全ての人に幸せがありますように。

父の体調が良くなりますように。




今現在、それから今後。

父と同じ病気で苦しむ方がもし居るのであれば

(いないにこしたことはない。)

このブログを参考(になるかならないかは分からないけれど。)に

していただければ、と思う。



※カルテの開示を求めるが主治医、担当医休みのため、

月曜日以降にして欲しいとのこと。

抗癌剤投与後3日経過。


私は具合が悪く病院へ行けなかった。(頭痛と生理通)

父も母も兄夫婦も頑張ってくれているのに私は生理通でこの有様だ。

自分が情けなくなる。


母に連絡をし、父の様子を聞く。

個室に移った、とのこと。


エ?なんでだ?と思い理由を聞くと

とにかく前のめりで、夜間のトイレなどが危ないと言うのが第一の理由。

ナースステーションの近くの部屋で、足元にセンサーを入れ、

夜間に立ち上がった時にすぐに分かるようにしておいたほうが

転倒防止になるだろう、とのことだ。


父は一人でトイレに行こうとする。

フラフラしているのに(かなりフラフラと歩く。)無理してでも

一人で歩行をしようとする。

お風呂なども最近は介助を必要としているのにも関わらず

父は意識朦朧としている中でも一人で歩く。


看護師に聞いたところ、何度か前のめりで転倒しているらしい。


とにかく転倒防止の為というのが第一の理由。


それから我が家の父は耳が遠い。

小さい頃、海で遊んだ際に耳に水が入り、抜けなくなってしまい

それが原因で左耳がものすごく遠いのだ。

よって話をする声が大きい。


孫も二人居て、病院へ父を見舞いに良く来てくれる。

それもあり、大部屋よりも個室のほうが良いだろう、と言うのもあった。


父はテレビに良く話しかける。(というよりはニュースに怒鳴りつける。)

大部屋に入ってからは控えていたようだが、やはり時々出る。

それも母や気にしていたらしい。


まぁ。どれをとっても個室に移動してマイナスになることはないので

個室に移動した、と言う。


今日は兄夫婦と子供二人が来てくれ、父の傍に居てくれた、とのこと。

姉も悪阻でゲーゲーしながら顔を出し、すぐ帰った、とのこと。


私は・・・寝ていた・・・。とにかく具合が悪かった。


思っているより副作用は出ていない、とのこと。

しかし本人意識朦朧。


左足がやたらに浮腫んで居た、との母からの話あり。


明日は病院へ行こう。

私に出来ることなんて大したことはないけれど、行くだけ行こう。


父。食事完食。

熱なし。


母も疲れているだろうが、気丈に振る舞い、やるべきことをこなす。


二人ともとてもタフだ。とても頑張っている。


どうか二人に幸せがありますように。

それから


全ての人に幸せがありますように。


父の抗癌剤治療二日目である。


昨日ジェムザールを投与した父。


18時頃顔を出すと、ベット際に座りながら母と話をしていた父は

「おう!」と片手を挙げた。


顔色は悪くない。


「具合どう?」と話しかけると

「今日は悪くない。」との返事。


昨日は来れなくてごめん。

言葉に出来ずに心で思って椅子に座る。


ベットの対面においてある椅子に座ってすぐに

父の足の浮腫に気が付く。


私 「あれ?足すっごく浮腫んでるよ。」

母 「あら。ほんっとだ。」


聞くと、今日は父の親友であった奥さんが病院へ父を見舞いに来てくれ、

2時間程度、とても楽しそうに話していた、とのことだった。


きっと座りっぱなしだったから浮腫んで居るんだろう、とのこと。


違うよ、お母さん。

抗癌剤で浮腫む事は良くあることだよ。


私 「今日、●●コさん来てくれてたんだ。」

父 「うん。」


私と母に対しては元々口数少ない父はあまり多くを語らない。

が、その親友の奥さんとはとても楽しく話をしたらしく、

父は母にベットに横になることを勧められ、

横になって暫くするとうとうとし始めた。


私の彼氏から預かった孫の手のようなものを母に渡し、

父の足の裏をポンポンと叩く。


父は気持ち良いのか足をそのままにしている。


母 「きっと気持ち良いのよ。足伸ばしたままだもの。」

私 「良く分かるね。察するってそういうことだよね。」


私の彼氏は基本何でも言葉にしろという人だ。

言葉にしないと分からない、と言う。そのことでケンカになることも多い。


父と母は言葉は多くないが、母が父の態度から察して

手を出すことが多い。私にとってはそれが普通のことになっていた。


しばらく二人で交代しながら父の足の裏を叩いていると

父が


気持ち良いな


と言葉を発した。


私 「あ、ほんとだ。」と母の顔を見て言うと

母はちょっと笑って 「でしょ。」 と言った。


足を叩きながら、ベットの柵の部分がべたついているのに気が付く。


私 「あ、なんかこぼしたべ?」

母 「昨日、排泄(直接排泄と言う言葉は使っていない。)に失敗したのよ。

   あなたが持ってきてくれたタオルと雑巾があって助かったわ~。」


そんなことを言った。

要するに、父はトイレでウンチをした後、うまく拭き取れず少し残っていたらしい。

それに気が付かずベットに戻って来てしまい、シーツを汚した、と言う詳細。


母は小さい声で話する。

父は聞こえていないフリをする。


特に詳細は話しなくて良いよ、父も傷付くだろうと思い、

「うんうん、そっか、分かった。」と軽く返事をする。


きっと母も父もショックに違いない。

病院に来て一番最初に排泄に失敗した時、母はショックの色を隠せなかった。

その後の父の顔もショックの色を隠せなかった。


お薬が入っているんだから、仕方ないことなんだよ。


母にはそう伝えたが、父にはこの言葉をまだ伝えていない。

どこから触れて良い話題なのか、そうじゃないのかが分からないのだ。


特に何も言わず、母の話を聞いて、近くにあったウェットティッシュで

ベット枠を拭く。それで良い、と私は思う。


と突然カーテンが開く。兄だ。


兄 「早く終わったから来て見た。」


早く終わったのかもしれないし、早く終わるように調整したかもしれない兄は

父の顔を見て、私が居ることを知って


兄 「皆で居ても仕方ないからまた明日来る。」


そんな会話で本当に5分も居ないですぐに帰った。


母は「あの子は小心者だから。昨日もあんなだったのよ。」と言う。

聞き返す私に


「昨日は具合が悪かったでしょう。そしたらね。具合が悪そうだから

居ても仕方ないから帰る、って。男同士はそんなもんなのよね~。」と

ちょっと笑う。


兄は兄でとても心配しているのがとても伝わってきた。

言葉がヘタクソで表現もとてもヘタクソだけれど

兄は兄で父を想い、母を想い、家族を想って居る。

とても素敵な兄を持った、と思った。



暫くして父の食事が来る。

その前にインスリンの注射。8単位。



父は今日も無理にでも食事を流し込む。


お米200グラム

いんげんの胡麻和え

鶏肉の焼き 70グラム

つぼづけ


・・・など。


食事を無理矢理流し込む父の横で、口うるさく言っても仕方ないので

看護士の口調を真似して


「はい、●●さ~ん、ゆっくり食べてくださいね~。」

「はい、●●さ~ん、咳き込んでますね~。無理して流し込むからですよ~。」


父が怒らないで済む程度に、母の笑いを誘いながら

出来るだけ父にはゆっくり食べて貰うように促す。


その後、父の夜の薬が6粒渡され、ゆっくり飲ませる。


 タケブロン 15(胃) 2粒

 マグラックス(腸) 330mg 2粒

 ノバミン(安定剤) 1粒

 メジコン(咳止め) 1粒


20時の痛み止めとして ナイキサン 10 1粒


以上7粒。


父は今日は比較的ゆっくり食事を終えた。



食事の後、食器を持って食器棚へ返却しに行く。

ヨタヨタとした足取りは変わらない。


お酒飲んでるわけじゃないのにね。


戻ると歯磨きへ行く。


お箸とコップと歯ブラシ、歯磨き粉、

今日、母が持ってきたデンタルリンスとタオル。

それから食事の時に使ったお箸。


父はデンタルリンスを使った事がないので一緒に行って

説明してあげて、と母が微笑みながら言う。

あたしが言うと、また怒るから、と。


私は父に歯ブラシとコップだけを持たせて

一緒に洗面所へ行き、歯ブラシをする父の横で


「お箸洗っておくね~。」と言い、

食事の時に使ったお箸を洗う。


父はちゃんと下を向いて歯ブラシをするようになった。

家に居るときは下を向かずに鏡をむいたまま磨くので

鏡が歯磨き粉でよく汚れて居て、母が

「も~お父さん下向いて磨かないから~。」と

こぼしていたものだ。


父は父なりに母の言っていることを守って下を向いて磨き、

コップで自分の口から出た野菜の細かくなった物などを

ちゃんと水で流すようになった。


家ではそんなことしてなかったのにね。


私 「そろそろ入院生活にも飽きてきたでしょう。」


父に話しかけると


父 「ン? あぁ、そうだな。」と言った。


父も相当辛いはずだ。


あんなにお酒が好きなのにお酒が飲みたい、とも言わず

抗癌剤と向き合う父。手術のことなどにも一切文句を言わない。


父はものすごく頑張っている。


歯磨きを終えた父に


「はい、今日からデンタルリンスいきまーす。」とふざけて声をかけ、

父の差し出したコップにデンタルリンスを入れ、


「しばらく口から出したらダメだよー。はいまだはいまだー。」

と横で声をかけ、父にクチュクチュを口の中でさせ続ける。


父は昔なら文句を言っただろう。

こんなことはしなかっただろう。


けれど父は何も言わず黙って口をすすぐ。


「はい、もうオッケー。」


と30秒くらいしてから声をかけたが、父はまだ辞めず、

もう2回くらいくちゅくちゅを続けてからペッっと吐き出した。


「甘いな、これ~。」


と言いながらまた水で口を漱ぎ直した父。

なんだか可愛かった。


「あ、口の中気持ち悪くなった?」と聞くと

黙って首を振る。


その後、また二人で洗面台の流しを綺麗に流し直して、

フラフラする父の後ろに付きながら病室へ戻る。



父は随分とヨタヨタとフラフラと歩くようになった。

少し前かがみになって歩いている。


今日、ベットから起きようとする父を頭を抱えて

何度起こしたかな。


随分と力が無くなった。


それはきっと父が一番感じていることだろう。



とにかくフラツク父を見て、先生なども心配しているらしく

今後要注意してくれるとのことだった。


父はトイレに行き、トイレの前で母と二人で父が出てくるのを待ち、

(倒れる可能性があるため。)

父が出てきてベットに戻り、横になるのを確認する。


20時の痛み止めはまだ飲んでいない。

父はうとうとする中でも痛み止めが気になるのか

何度も目を覚ます。


19時30分。

少し早いけれど父に痛み止めを飲ませ、

「これでゆっくり眠れるでしょう。」と母と顔を合わせ


また明日来るね、と二人で言い帰る事にする。


今日の父は帰り際、私の顔も母の顔も見ていなかった。

その代わり、


そろそろ帰るか、と言った時


「無理するなよ。」と私に声をかけてくれたので


「お前もな。」 「ン?お前がな、か?」と冗談交じりで話をした。


お父さん。冗談じゃなくて、

私より、お父さんが無理しないで居て欲しい。



母と二人で父は私と母には冷たいよねーと言う話をしながら

駐車場まで行く。


私は自転車。母は車。


じゃあね、と手を振り合い、別れる。


母も良く頑張っている。一日も休むことがない。



私がここで負けててはいけない。

分かっているのに・・・ね。


父と母に幸せがいっぱい起きますように。


祈ることしか出来ない。