― 人は、誰だって空を飛べるんだよ ―
「ザ・ワンダーボーイ」
ポール・オースター 「Mr.ヴァーティゴ」原作
NHK-FM 青春アドベンチャーで流されていた「ザ・ワンダーボーイ」
私が中学校のころは、まだカセットテープやMDに録音していた時代。
受験勉強中もずっと聞いていて、脳内で15話全てを記憶してしまいました。
それから8年。
今でも当時録音したMDが実家にあるのですが、そのMDコンポも異常をきたし、MDを押すとCDが流れる状態。。。
2002年に放送されていたこの「ザ・ワンダーボーイ」
眼を閉じて、頭を空っぽにして、
夢を、もう一度追いかけてみませんか??
舞台はアメリカ、1920年代。
人種差別、強盗は当たり前。
「空を飛べる様にしてやる」
マスターと出会って修行して。
大事な家族を失って。
そこで掴んだ新たな希望。
ウォルトは、浮いた――。
成功を収めた彼に降りかかる頭痛。
これが原因で舞台を降りることに。
そしてマスターをも失った彼は、夜の世界へ。
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録音したラジオが1周する度に涙したものですが、STILLNESS という評論サイトに詳しく載せられていたので紹介したいと思います。
- Mr.Vertigo
両親を亡くし、暴力的な伯父、伯母のもとで浮浪児のような暮らしをしている少年ウォルトは1924年、9歳のある日、街角でマスター・ヤフディと名乗る不思議な男に出会う。
彼は、自分についてきたら空を飛べるようにしてやろう、13歳の誕生日までにできなかったら自分の頭をかち割ってもよいという。伯父のスリムらも「ただで引き取ってくれるなんて有り難い」と喜んでいたときいたウォルトは、生まれ育ったセントルイスを離れ、この謎の男についていくことにする。
列車を乗り継いで二人がたどり着いたのは、カンサス州の何もない僻地であり、マスターの農場で新しい家族として彼を迎えたのは、丸々と太ったインディアンの中年女性マザー・スーと年上でせむしの黒人少年イソップであった。もちろん人種差別に何の疑いも持たないウォルトは、イソップの差しだした握手を受け入れない。電気もガスも音楽もない石器時代のような生活、ユダヤ人、黒人、インディアンと一つ屋根の下で暮らす生活に耐えきれないウォルトは何度も脱走を試みるが、その度に不思議な力によって阻まれてしまう。ウォルトはもう一度脱出を試み、町へたどり着くものの、突然降りだした雪に道を阻まれ、埋もれてゆき、意識が朦朧とする中、あかりを頼りに何とか一軒の家にたどりつく。自分はもう死んでしまったのだと思い、家から出てきた女性を天国にいる母親だと勘違いしたウォルトの前に、部屋の奥から顔を現したのは何とマスターその人だった。以来ウォルトは数週間に渡って寝込んでしまうのだがやがてマザー・スーらの必死の看病によって再び意識を取り戻したウォルトの中で、これまでの嫌悪感は愛情へと変わっていった。
ウォルトはマスターの支持のもと想像を絶するような特訓に励む。生き埋め、鞭打ち、荒馬乗り牛馬の糞尿を飲まされ、左手の小指を切断されてもマスターを信じて特訓に励む。そんなウォルトが初めて空中に浮かんだのは次の年のことだった。缶詰の切り口で切ってしまったイソップの指が壊疽にかかって腫れ上がり、マスターはその指を切断することにする。手術に立ち会って取り乱してしまったマザー・スーは、階段から落ちて足を折り、しばらくマスターとウォルトが家の用事を切り盛りしていた。しかし、ある朝ウォルトがいつもより早く目覚めてみるとマスターの姿がない。自分たちを見捨てて出ていってしまったのだと絶望し、泣き伏していたウォルトの体が、その時急に浮かび上がったのである。
マスターが出ていったと思ったのは結局ウォルトの勘違いで、マスターは、干ばつの間一家の生活を支えていてくれた恩人であり、彼の恋人でもあるミセス・ウィザースプーンを連れて帰ってくる。その後もウォルトは、一人部屋にこもっては練習を繰り返し、その年のクリスマスにはみんなの前で初めて空中浮遊を披露する。
マスターはイソップのはいる大学を探すために二人で東部へ行き、イソップはイェール大学への入学を認められた上に、奨学金までもらえることになる。ウォルトの空中浮遊も上達を見せ、全てがうまくいっていたある日、悲劇は起こった。
いつものようにマスターとウォルトが近くの池で練習をしているときに、母屋でクー・クラックス・クランの襲撃を受け、イソップとマザー・スーが殺されてしまうのである。ウォルトとマスターは助けに行くこともできず、二人を見殺しにしたまま、家が燃えていくのをただただ遠くから眺めていることしかできなかった。
二人の遺体を埋め、ウォルトとマスターはウィチタのミセス・ウィザースプーンの家に住み着く。
マスターは責任を感じてしばらく落ち込んでいたが、2ヶ月経った頃やっと回復し、二人はショービジネスの世界へと出発する。まずは田舎町からはじめ、徐々に大きな町をまわるようになり、技も上達し「ウォルター・ザ・ワンダーボーイ」の名前も売れてきた頃、予期せぬ客人がやってくる。
評判を聞きつけたスリム伯父が分け前をよこせといってきたのである。マスターもウォルトももちろん相手にしないのだが、もう伯父の存在も忘れかけていた数カ月後、ウォルトは一人で映画館にいたところを誘拐されてしまう。スリムとその相棒フリッツの仲間割れに乗じて何とか身代金の受け渡し前に逃げ出したウォルトは、マスターの元に戻ってみるとミセス・ウィザースプーンは身代金五万ドルを用意するために他の男と結婚してしまったという。
一ヶ月の休養をとった二人は、誘拐の報道によってネームバリューがあがったことも手伝ってより大規模な興業へとうって出る。今度は大きな町、しかも屋外ではなく屋内、ライトもあれば音楽もある。
ウォルトは今までの芸に更に磨きをかけ、興業は大成功を収めていた。次に、サンフランシスコからニューヨークへの大陸横断ワンマンツアーを企画するのだが、これは実現しないままに終わる。
ウォルトはもう飛べなくなってしまったのだ。
彼は演技が終わり幕が下がると同時に倒れ、頭痛に悩まされるようになった。そしてその頭痛の時間は回を重ねるごとに長くなり、痛みも深刻になってくる。マスターは名前を「ミスター・ヴァーティゴ」(めまい)に変えるべき時がきた、「ウォルター・ザ・ワンダーボーイ」はもうおしまいだ、というがウォルトは認めず、最後のチャンスを貰うものの、結果はまたしても終了後の頭痛であった。いくつかの興業をキャンセルし、病院で検査を受けた結果、何の異常も見つからず、喜んだウォルトは復帰したがるが、マスターは
異常がないということは治る方法がないということだと、逆に確信を深め、ウォルトをたしなめる。
マスターは過去の例から見て頭痛の原因は思春期にあり、睾丸を切り取り除去しない限りは治らない、
その場合も確実に治る保証はない、という。
二人は「ウォルター・ザ・ワンダーボーイ」を廃業し、映画スターを目指すことに決めるのだがハリウッドへ向けて、車でモハーベ砂漠を走る二人を待ち受けていたものは、またしてもスリム伯父であった。二人は命だけは助かったものの、金を奪われ大怪我をし、車も壊されてしまった。
癌を患っていたマスターはこのままでは二人とも助からないと思い、ウォルトに自分を拳銃で撃って一人で行け、という。だが、ウォルトには引き金を引く勇気はなかった。結局マスターは自分の手で頭を撃ち抜く。ウォルトにはそれを止めることもできなかった。
しかし、物語はまだ終わらない。その後ウォルトはかつての浮浪児に戻り、三年かけてスリム伯父を見つけ、復讐を果たす。マフィアの世界に入ったウォルトは組織の中で出世していくが、競馬で大金を稼いだのをきっかけに自分のナイトクラブを経営し、シカゴでもナンバーワンの店にする。この店にやってきたのが、過去に栄光をつかみながら、力衰えた今となっても引退せず、ぶざまな姿をさらしている野球選手ディズィー(Dizzy訳めまい)であった。ウォルトは彼と親密になるが、それだけにピークを過ぎても過去の栄光にすがりつくディズィーの姿に昔の自分が重なってしまい、彼を許せない。過去の栄光を取り戻すには死ぬしかないのだ。ある日、意を決したウォルトはディズィーを呼び出し、殺そうとする。
しかし成し遂げることはできず、逮捕され軍隊へと送られてしまった。
軍隊を除隊した後のウォルトはあちこちをさまよい、いろいろな職に就く。
1950年にニューアークのパン工場で働きはじめ、そこで知り合ったモリーという女性と結婚、子供はできないもののたくさんの親戚ができる。23年後にモリーが死に、失意の中仕事もなくしてしまっていたウォルトに救いの手をさしのべたのは甥のダニエル・クィンであった。
彼は自分の働く大学に用務員の口を見つけてやり、ウォルトを呼び寄せる。
その話に飛びつきデンヴァーへと向かったウォルトであったが、途中懐かしさからぶらりと立ち寄ったウィチタで、もう死んだものと思っていたミセス・ウィザースプーンと再会。
そのまま彼女の仕事を手伝い、以後の十数年夫婦のように暮らすようになる。
そののちウィザースプーンも亡くなり、一人のこされたウォルトはこの物語を書き始め、十三冊のノートにまとめあげる。彼は掃除婦の黒人女性の息子に、昔の自分の姿を見、イソップの面影を重ね合わせる。
この子には自分と同じように才能がある。
三年もあれば次の「ワンダーボーイ」になることができるだろう。
しかし、今は時代が違う。自分の経験したあの厳しい修行を人にさせる気にはならない。
彼は過去に思いを馳せ、誰でも空を飛ぶことができると思う。
特別な才能などいらない。
自分であることをやめ、自己を蒸発させるだけ。
そうすればあんたの体も宙に浮くんだよ。