およそ260万平方キロに及ぶ世界でも有数の荒海です
そこはカニ漁の危険な主漁場
重い漁具
荒波
厳しい天候はすべて危険要因です
ケガはつきものです
漁期中に必ず死者が出ます
漁の解禁から40時間
多くの船員は不休でカゴを仕掛けてきました
最初の水揚げが不漁に終わった船も…
次の12時間 漁師たちは
肉体と精神の限界に挑みます
トップに立つ者 つまずく者
一攫千金を目指し 様々なドラマが繰り広げられます

“トニー フィアス・アリジェンス号”

“ロジャー サガ号”

“シグ ノースウエスタン号”

“コールマン ウエスタンバイキング号”

“ヴィンス ラッキーレディ号”

“ラリー シースター号”

10月17日 午前10時
ダッチハーバーから北東500キロ
ベーリング海で
1200人の漁師たちが
過酷な
カニ漁に挑んでいます
これほど危険な仕事は
他にはあまりありません
ベテラン揃いのシースター号(以下SS号)は好調。
「船にカニを満載する それだけさ」

「カニ漁では突然大量に恵まれることがある
ここは大当たりのようだ」
大漁のため、休憩はほぼナシ。
南西130キロ先にいるのは
小型船 ラッキーレディー号(以下LL号)

大型船は最大250個のカゴを積めるが、LL号はたったの88個。
それゆえ、すべての面において、失敗は許されない。
漁場が結果を大きく左右する


「どれも規定サイズのようだな
1時間で40杯なら上出来だ」
ヴィンスは満足げ。

24歳のケビンはこれが2度目のカニ漁である。
去年のサガ号でのカニ漁が初体験であったが、
初体験の漁であやうく最後の漁となるところであった。
現在のヴィンス船長と参加した漁で、なんと落水してしまったのである。






普通、船から落水すれば死ぬ。
救命スーツを着ていなければ、5分と持たずに溺れ死ぬ。
救命スーツを着ていても、もって数時間だろう。
なんとか仲間に救出され、九死に一生を得たケビン。
仲間たちもケビンを救った後、しばらく放心状態であった。
「仲間たちに心から感謝してる」
死にかけた事故を経験したにもかかわらず、今年もケビンは漁に臨んでいる。
「この仕事が大好きだ」
「美しい夕日や朝日 海鳥の姿に感動するんだ
都会の高層ビルからは 見られない光景だよ」

そして天候は荒れ、波が高くなり、カゴがぶつかって甲板に穴が空いてしまった。


その穴にケビンが足を取られ、ケガをしてしまう。


痛さに起き上がれないケビン。
小型船ゆえ、交代できる者はいない。
ダッチハーバーから北東240キロ

ノースウエスタン号(以下NW号)は解禁後200個のカゴを仕掛けました


最初の水揚げを前にシグは緊張気味。

新人のブラッドフォードはひたすらエサの準備。
「生臭いよ 言えるのはそれだけだ」
そして結果は…
最初のカゴはたった14杯。
次はメスばかり。
カニの雌雄の判別方法をエドガーが教えてくれる。



「こっちがオスで こっちがメスだ
見分けるには裏返す
メスの腹のフタは大きいが オスは小さい
ここが精巣だ
メスの腹のフタの下には 卵が詰まってる
数百万個ってとこかな だから海に返してやる」
「捕っていいのは 甲幅16.5センチ以上のオスだけだ
この道具で測る
両側が甲羅に当たれば規定サイズだ」

シグは悩む。
漁場を変えるべきか否か。
水揚げの合間に計算したところ
7000万ドル(約70億円)の割当量のうち
わずか5万ドル相当しか採れていなかった。
「最後のカゴは少なかった」(エドガー)
「漁場が悪い」(シグ)
「ふぅー」(ノーマン)
「そうだな ここはダメだ」(アダム)
「笑ってる場合じゃないが 笑わないとやってられない」(ノーマン)
「泣かないためだろ?(シグ)
「ああ そうさ」(ノーマン)
「あー 息子にバイクを買うつもりだった だが…今年は無理かな」(アダム)


北西40キロ先にいるのはウエスタンバイキング号(以下WV号)。

船の修理を終えて漁を開始、ぼつぼつ捕れている。
船長のコールマンは若いクルーの働きぶりに満足げ。


「若い3人はよくやっている ティムとウィリーとロブだ」
しかしその3人はそうは思っていない。

急に水揚げ量があがり、選別台が必要になった。
しかしその選別台を油圧装置とつなぐ部品がないことに気付く。


応急処置で部品を製作、取り付け作業の際にロブが指を負傷してしまう。
「ラムの位置を調節していたんだ
機関士がバールでラムを押さえていた
どうして動かしたのかわからない
バールが外れて 重さ90キロのラムが落ちた
指がつぶれたよ」(ロブ・ラドラー)


何とか選別台は設置できたものの、皆の中に重苦しい空気が流れた。


港から北東160キロのフィアス・アリジェンス号(以下FA号)。
漁船団で最大級の船である。

いつもは大漁だが、今回は絶不調。
いつもと違う漁場を選び、完全に当てが外れてしまった。
皆が落ち込む中、甲板員のサムは息子の話を始めた。
「息子のスティーブンは
大きくなったら医者になりたいと言っていた
あるとき 息子を俺の小型船で
5週間ほど漁に連れて行った
漁を体験した後に息子は言ったよ
『建設作業員か漁師になる』
女房は反対するだろうな」

サムがなぜこのタイミングでこの話をしたのだろう?
漁の厳しさとその達成感を知った息子が漁師になりたい、と
漁師である自分に伝えてくれたうれしさ?
いや、不漁のなかでのこの話をするということは、息子に対して再考を促しているのか?
いずれにせよ、捕れようが捕れまいが体力的な辛さ・しんどさに変わりはない。
漁船団で最年長の新人、42歳のエリックは既にフラフラ。
他のクルーからの意見も増えてきた。

「彼はやることが遅すぎる」
「フラついてないで てきぱき動けってんだ」
エリックの目はもはや光を失っている。
「2日目の終わりに 自分の決断を後悔したよ」
不漁のFA号に重い空気が流れる。
190キロ東のLL号ではケビンのケガで作業が止まっている。
結局捻挫だったようだがとても歩ける状態ではない。
しかしLL号を救いたい一心でケビンは再び漁衣を身に着ける。
ビニールテープで患部を固定し、立ち上がった。
「これは俺だけの問題じゃない
クルーの家族の生活がかかっている」



しかし歩けないケビンができる作業といえば、経験が必要なクレーン操作しかない。
いつもは漁師歴12年のベテラン、ティムが操作をしているが。

例えるなら、教習所に入って間もない、まだ車を運転したことがない人間に
皆が乗ったキャンピングカーの日本一周の旅のハンドルを任せるようなものだ。
さらに悪いことに海は大荒れ。
乗り切ることが出来るか?
港から北東190キロ地点のWV号。
クルーからは船長に対して厳しい意見が出る。
「次もカニが取れなかったら漁場を変えるべきだ」

南東100キロ先のNW号も不漁に悩まされている。
そんな中でも新米のブラッドフォードは文句を言わずに働いている。
「一日中エサを作っている たぶん夜通しだ」
先輩のエドガーも認める働きぶりだ。
「よく頑張っている 本人には言わないよ
今の調子で最後まで頑張ったら 俺の取り分を分けてやる」
ブラッドフォードは固定給のため、歩合制ではないが、それだけ良く働いているということだ。
もっとも、カニが取れなければ誰の取り分もないが。
港から北東190キロのWV号。
トラブルが続いたため、挽回を狙っている。
クルーは休憩の間も船長から小言を言われる。
「俺だって一生懸命やってるんだ
1回しくじっただけでこれだ
ねぎらってくれよ!」(ウィリー)
「…(知るか、とばかりに手を振る)」(コールマン)
「どの船長も怒鳴り散らすけど コールマンは最悪だ
怒鳴るだけじゃなく 人を見下したような言い方をする
発破をかけたり 命令したりするのは許せるが
ムカつく言葉を吐くんだ」(ティム)

横を通ったコールマンに殴り掛かるマネをするティム。
そりゃムカつくに違いない。

漁を再開。
するとなんと大漁。
今までの険悪なムードも吹っ飛び、皆興奮しまくり。


「ほとんどのカゴをこの一帯に仕掛けたから 最終結果が楽しみだ」(ケン)
皆仕事に没頭するが、悪い知らせが・・・
終漁の知らせである。

ついにカニ漁船団の合計水揚げ量が今シーズンの割当量に達するメドがたったとのこと。
終了時刻は翌日夜12時。
漁期はたったの80時間。
1隻平均4350杯とのこと。
FA号のトニーも終漁の知らせを聞いた。
同じ頃、NW号のシグも作業中のクルーを集めた。
「悪い知らせだ」

145キロ東のLL号でも船長のヴィンスが終漁の知らせを受けた。
「ここ10年くらいでカニは激減した
当然 漁獲割当量も年々減り 漁期も短くなった
以前の漁獲割当量は 今とは比べものにならないほど多かった
カニ漁は3か月ほど続いた それが今じゃ たった3日だ」(ティム)

北西210キロ先のWV号。
コールマンが仮眠のため、マイクが代理で舵をとる。

漁も好調で、皆追い上げに必死だ。
ところがまたトラブルが。
油圧装置のホースが破れた。
機械油が魚倉に流れ込めばカニは死んでしまう。

機転を利かしたウィリーが装置のスイッチを切ったため、船がブイを通り過ぎてしまった。
代理のマイクは気に食わない。


「おい 何かするときは俺に聞いてからにしろ」
「マイクはのとおり船長気取りだ
普通は油圧ポンプのレバーをいじらないかぎり油はもれない
今はレバーをいじってないのに油が漏れてる
それなのにマイクは“油は漏れない”と言い張る」(ウィリー)
結局油漏れは止まったが、また皆の士気が下がってしまった。
「9回裏2アウトだ もう あとはないぞ」

泣いても笑ってもあと少しで今季のタラバ漁がおわってしまう。
1-4へ続く。