今回は、物語式でお送りします。

主演はオールアクセスです。

【くま日和】　色褪せた、写真の中に

学校の課題で、グループ学習に必要な資料になりそうな物が無いか
祖母の家を訪れてみた時のこと。

祖母の古いアルバムの中に、気になる写真を見つけた。

（孫）　　「ねぇねぇ、お婆ちゃん、これ･･･だぁれ？」

私の問いかけに振り向いた祖母は、その写真を目にすると
嬉しそうに目を細めて言った。

（祖母）　　「これは、私の大事な、大事な、お友達･･･。」

祖母は、話しだすと長い。
とてつもなく長い。

そのあまりの長さに閉口するのだけど、話をしてる祖母はとても嬉しそうなので、
孫孝行として時間がある時は、お茶菓子を食べながら２時間くらいは聞き手に徹している。

昔、どこか大きなお屋敷で働いていたと聞いた事があったので
私の脳内で再生されるお婆ちゃんは、メイド服の姿。

どうせ想像するなら可愛い方が聞いてるこちらも面白いのだ。

　　「あの頃は、大変でねぇ。食べるために色んな仕事をしたものだよ。」

この辺りの下りはいつもと、おんなじ。

本屋さんや映画館でも働いたり

カフェの女給とか

うどん屋さんで修行したり

洗濯の手伝いをしたり

花の仕入れや、野菜や果物を売りに歩いたり

紙芝居もやってたんだよね

何度も何度も同じ話をするので、覚えてしまい
最近は適度に聞き流していたのだけれど、今日の話は
ここからがいつもと違った。

　　「働いていたお屋敷が、ある日いきなり夜逃げで、もぬけの空になってて、
お給金も頂けないまま、その日いきなり職無しになってしまってね。」

　「正直、食べていくだけでも精一杯だったから、もうホトホト困り果ててしまって」

　　「えーー！何それ！！ひどい！」

　　「あのときは親戚も頼れない状態だったからどうしようもなくてねぇ。」

　　「行き倒れそうなとき、その写真のお嬢さんに出合って
お屋敷に雇ってもらったのさ。」

　　「お嬢さんは、お人形さんのように綺麗で、愛らしくて、教養もあるのだけど、
やることなすこと･･･ふっ、ふふふふ、今思い出しても笑っちゃうわ。」

察するに、『深窓のお嬢様』では無いらしい。

　　「ドレスのまま平気で木登りして、鳥たちと戯れたり
メイドの服を着て、私達と一緒に仕事をしてみたり、しょっちゅう、つまみ食いしに台所に来たり、
自転車に乗ったは良いけど、ブレーキのかけかたを知らなくて、そのまま
三つ先の町まで行っちゃったりねぇ。旦那様が捜索願出したり大変だったわぁ」

　　「その時代からすると、ちょっと変った性格で･･･、
全然気取ってないし、私にも友達のように接してくれてね。
勿論身分も違うし、お嬢さんだと言う事は忘れていないけれど、
私にとってお嬢さんは初めての友達だったんだ。」

　　「ある時ね、ファッションショーみたいな事もやったりして」

　　「その時、お嬢さんが緑色のドレスを私に下さってね、嬉しかったよ。」

　　「緑色のドレス･･･あっ！お母さんが着てたの見たことある！
アンティーク物で高級なのよ！って自慢してた！」

　　「そうそう、あれはね、お前のお母さんの結婚式のお祝いに
お婆ちゃんがあげたんだよ。今度はお前が大きくなったら、
お母さんから貰うといいね。」

　　「うん！お嬢さんは、今どうしてるの？」

　　「海外へお嫁に行ってしまわれたから、かなり長く会ってないねぇ。
でも、今でも偶に手紙のやり取りはしているよ。」

　　「お婆ちゃんは着いて行かなかったの？」

　「好いた人が居て、この国を離れられなかったのさ。」

祖母は、チラッと縁側で盆栽を手入れしている祖父を見て
クスクスと笑った。

　　「やだ！まさか･･･お爺ちゃん！？馴れ初め聞きたーい！」

祖母はコクコクと頷きながら、口元に手を当てて小声で「シーッ」と言って

　「それはまた今度、お爺ちゃんが留守してるときにね！それより、探し物があるんじゃなかったの？」

　「あーっ、そうだった！！学校の課題ー！」

それは一枚の写真から始まった昔語り。

誰しにも思い出があるように、祖母も例外では無い。

色褪せた写真の中には、私の知らない物語がまだまだ沢山詰っている。
今度は、課題の資料探しじゃなくて、お嬢さんとの話しとか
若い頃のお爺ちゃんとお婆ちゃんの写真を見ながら、二人の馴れ初め話しなんかを聞いてみたいと思った。

～色褪せた、写真の中に～　END

・写真に写っている食べ物などは、食品サンプルです。
・写真撮影可能の施設で撮影しています。