千景目線

すやすやと眠る我が子と愛しい妻の寝顔を見ていると、時々自分も千鶴も鬼であることを忘れてしまう。
だが、時は自分にあの時の記憶を忘れさせない。
今でも飛び交う鮮血は、風間の記憶に鮮明に残っている。
もっともそれは風間にとっては普通であり、むしろ誇るべきことであるのだが。
「千景……さん」
ふと千鶴が目を覚まし、風間を見つめた。
「……千鶴」
「赤ちゃん…抱かせてもらってもいいですか?」
「…ああ」
弱々しいその両手を懸命に伸ばしながら赤ん坊を受け取る千鶴の姿が小さく揺れた。
「ふふ…可愛い」
頬を朱に染めて赤ん坊の頬を優しく突く。
「男だそうだ」
「そうですか…。」
「つらいか」
「……いいえ。あなたと一緒になったときから……覚悟はしてました。だから……」
そう言って千鶴の顔が赤ん坊から上がる。
「だから後悔は…してない。」
覚悟を決めた瞳。
それはこれからも共に歩んでいくという千鶴の意志表示でもあった。
「…………フン。それでこそ我が妻だ。」
「でも。危ないことはさせないでくださいね。
私がちゃんと見てますから。」
「………フン。見ておけ。」
ずっと。
ずっと俺を見ておけ。
目を離すな。
俺から…離れるな。
「……離れるかもしれませんよ!愛想を尽かすかも……しれませんよ。」
羞恥と悲しさの入り混じった顔で視線を逸らす千鶴。
「その時は…迎えに行く。」
そう呟いた千景は千鶴に近づき、その顎を持ち上げてもう一度囁く。
「その時はこの俺が直々に迎えに来てやる。あの時のようにな。」
「…あ……う………」
千景の言葉に顔を真っ赤にした千鶴は下を向いた。
「………約束ですよ?」
「…ああ。」
絶対に話さない。
千鶴。
お前だけは。
庭の胡蝶蘭が…咲き始めた。

