そんなネーハイシーザーの前に大きく立ちはだかったのは、やはり宿敵ビワハヤヒデだった。前年にネーハイシーザーが沈没した菊花
賞をレコード勝ちしたビワハヤヒデは、この年京都記念(Gll)、天皇賞・春(Gl)を圧勝し、芦毛伝説の継承者としての正統性を獲得しつつあった。他の
馬たちにつけいる隙を与えない強さで連勝街道を歩むビワハヤヒデの姿は、今にして思えば、競馬界に訪れつつある新しい時代の兆しだったのかもしれない。当
時外国で繋養されていた種牡馬シャルードと、輸入繁殖牝馬であるパシフィカスの間に生まれたビワハヤヒデは、内国産血統の中でも地味な部類に入るネーハイ
シーザーとはあらゆる意味で対照的な存在だった。
ビワハヤヒデは、宝塚記念でも単勝120円の圧倒的支持を受けたが、そんな王者につけいる隙があるとすれば、宝塚記念が2200mのレースであり、長距
離ではなく中距離の部類に入る、ということだった。長距離では圧倒的な強さを発揮するビワハヤヒデだが、中距離ではどうか。もちろん前年の神戸新聞杯やこ
の年の京都記念からして強いことは間違いないにしても、他の馬がまったく歯が立たないというほどではないのではないか。今回の出走馬には、ようやく本格化
した中距離のスペシャリストがいる・・・。芦毛の王者を打倒すべき挑戦者たちの中で、一番有力な存在とされる2番人気に支持されたのは、中距離街道を勝ち
進んできネーハイシーザーだった。
だが、ネーハイシーザーはこの日も敗れ去った。ネーハイシーザーにとって不運だったのは、この日の出走馬の中に、前年ビワハヤヒデとクラシックを競い、
「平成新三強」と呼ばれたウイニングチケット、ナリタタイシンの姿がなかったことだった。ビワハヤヒデよりも後ろで競馬を進めるこの2頭がいてくれれば、
ビワハヤヒデも後ろを気にしなければならず、そうそう簡単には動けない。そのため、前で競馬を進めるネーハイシーザーが、そのまま粘りこめる可能性も大き
くなるはずだった。ところが、この2頭はいずれも体調が整わずに回避したため、ビワハヤヒデと岡部幸雄騎手は、自分たちの前にいるネーハイシーザーだけを
見ながら競馬をすることができた。ネーハイシーザーは、終始ビワハヤヒデにマークされる形でレースを進めなければならなかった。
そして、道中ずっとビワハヤヒデにマークされ、そのプレッシャーにさらされていたネーハイシーザーには、直線に入るころからの、いつものような粘りは
残っていなかった。それどころか、ビワハヤヒデが第4コーナーあたりで早々と先頭に立った時には、抵抗する余力さえもほとんど残ってはいなかったのであ
る。
ビワハヤヒデが2着に5馬身差をつけてのレコードタイムという、相変わらずの横綱相撲で圧勝した一方、ネーハイシーザーはビワハヤヒデから8馬身以上突
き放されての5着に沈んだ。神戸新聞杯、菊花賞に次ぐ、3度目の完敗であるとともに、得意なはずの中距離で、それも本格化したはずの今でもまったく通用し
なかったこの日のレースによって、ネーハイシーザー陣営の人々は、真の名馬を破ってGlに戴冠するためには、今のネーハイシーザーでもまだ力が足りないと
いうことを思い知らされる結果となった。