外国人(特に不法滞在者)が事故で怪我などして後遺症がある場合の損害賠償額を決めるにあたって、失われた利益として本国の賃金を基礎にするのか、事故があった国の賃金を基礎にするのかについて日本と他の国の判例を調べていました。ネットで検索していて、カリフォルニア州の一つの裁判例を説明した文献に当たりました。とある財団のニュースレターの中の記事なのですが、その財団は不法滞在者にはアメリカの医療費や賃金を基準にして損害賠償額を決めるべきではないと言う意見で、その旨裁判所にも第三者として意見書を提出していたようです。ニュースレターでは「裁判所は更に進んだ判決を下した。(一審が認めたアメリカを基準とした)損害額を減らしたのではなく、控訴人の請求そのものを否定したのだ。重大な後遺症の残った控訴人のXXさんは気の毒だか、不法滞在者には保護は与えられるべきではない。」みたいなことが書いてありました。これはおかしいと思い、確認のため実際の判決を読んでみました。すると、確かに控訴人被害者の相手方に対する請求は控訴審で否定されてしまっていたのですが、滞在資格とは全然違う理由によるものでした。
財団の名前はワシントン リーガル ファンデーションという立派なものです。調べてみると極右色の財団で、けっこう規模は大きいものでした。”リーガル”リサーチをする機関がこんなに自分に都合の良いように不正確にねじまげられた記事を出していいのだろうか、これを読んでこのはなはだしい意図的歪曲に気づいた人はこのファンデーションの法律理解能力を見限るだろうから自殺行為ではなかろうかと、とても不思議でした。政策問題についてならいろいろな見方があり、極端な意見も極端だから悪いともいえませんが、法律の場合は都合のよい解釈にもおのずと限界があると思うのですが。
同僚にこのもやもやを相談したところ、「何がおかしいの?この財団はとても偏向していて、ニュースレターを読む人も同じ傾向で偏向していて、この記事はそういう人たちから寄付をもらうための宣伝で書かれているのだから、法律的正確さは関係ないんでしょ。普通の読者は実際の判例にあたって確認なんかしないんだからそれでいいんだよ。」ですって。なんかアメリカ的だなーと思いました。この説明は正しいと思うけど、もやもやは晴れません。