どうも,Iです。
先日,大学の講義で面識を得たPublic Defender事務所の弁護士のトライアルを見せてもらいにいきました。
事件は娘(42歳)が母親(70歳?)にけがをさせたという傷害 (assault)。要は親子げんかで,けんかに至る詳しいいきさつは英語聴き取り能力の問題により分かりませんでしたが,娘が母親をテーブルに向かって突き倒し,その際右頬付近にひっかき傷を負わせたようです。
陪審員に示された写真と,証人として出廷した母親の様子から見ると,けがの程度はひどくなく,後遺症もないようです。日本なら起訴猶予か?とも思いましたが,前科・前歴によっては違うのかも(前科・前歴の資料はトライアルでは出されず,sentenceの段階で初めて出されるので前科関係は分かりません。日本の裁判員制度は罪体と量刑が分かれておらず,裁判員に前科資料も見せますが,やや問題ありの気がします)。
*
陪審員の選任が午前10時30分ころから午前11時30分ころまで,その後裁判官から陪審に対する説明に続いて双方の冒頭陳述。
弁護人の冒頭陳述 (opening statement) は,vulnerable victimはdefendantの方だというものでした。小さい時から何十年にもわたり母親からの身体的・心理的abuseを受けたことにより,娘には母親に対する恐怖心が植え付けられており,母親からけんかを売られたことによりけがを負わされるのではないかとおそれ,自己を防衛するために必要最小限の暴行を行った,Self defenseであるというものです。Sad story.
法廷に,譜めくり台みたいなもの(日本のお笑い番組でピン芸人がペラッ,ペラッとめくっていくようなやつです。それで上が綴じてある。呼び方が分からないので以下「譜めくり台」と仮称します)が設置してあります。弁護人は,冒頭陳述の際,それを陪審員に向け(裁判官には見えなくてもよい),マジックで"VULNERABLE VICTIM"とか"Self-Defense"といったキーワードを大書していきます。講義の時に見せてもらったのでは,キーワードやキーセンテンスを印刷した紙のボードを持参し,陪審員に見せながら弁論することもあるようです。
これは報告書でも書いたことなのですが,日本で「分かりやすい審理」ということで裁判員模擬裁判をやると,何かにつけパワーポイント,パワーポイントと,そればかりに頼りきりになっている気がします。アナログな情報の方が印象に残りやすいこともあるでしょうし,もっと創意工夫の余地があるんじゃないかと思います。
午前中は被害者 (alleged victim) の検察官主尋問まで。午後1時45分から反対尋問。弁護人は,ここでもポイントとなる年月日やキーワードを,陪審員に見えるよう譜めくり台にメモ。この母親は「ええ,こうこうこういう時には娘を叩いてました」と普通に証言。えー。しかもベルトとかで。
その後,現場を直接は観ていないのでよく分からないという親族2人(この証人いるか? と疑問),警察官1名の証人尋問があり,最後に被告人質問。
弁護人が"Do you love your mother?"と聞くと,被告人は"Yes..."と泣き出してしまいました。"How do you feel to see the mother testify against you?"という質問には,検察官からobjection (sustained)。
*
被告人質問が終わった段階で午後4時10分。これは評議は明日だなぁと思っていたら,裁判官がinstructionを開始。引き続いて検察官・弁護人の順にclosing argumentを行い,最後に再び検察官がargument(Maryland州では検察官に最終弁論権があるようです)。
弁護人が弁論で譜めくり台に何を書くかと思っていたら,"LOVE & FEAR"というセリフ。娘は母親を愛してたんです,でも同時に大きな恐怖があった。それぞれの文化,慣習,伝統があるのはいい。でも子供をぶつというのは? Not OKだ(親子がメキシコからの移民なのを踏まえて)。
それからpresumption of innocence, burden of prrof, beyond the reasonable doubtの説明。ここでは再現できないのですが,25分間にわたる熱い弁論でした。――さっき裁判官は,最後に検察官が弁論をすると言いました。でもそれは間違いです。Last wordを持っているのは検察官じゃない。あなた方なんです。You have the two words: NOT GUILTY.
双方の弁論が終わったのが午後5時15分。疲れたしお腹もすいてきたなぁという時間に,陪審員は評議室へ移動。傍聴席で本を読んで待っていると,午後5時45分ころ評議室からノック。30分で評決が出たらしい。
いったん解散していた検察官・弁護人・被告人が呼び戻されて再び開廷。緊張の一瞬,陪審員長が宣言した評決は? ――Not guilty.
裁判官は良い評決が出たねという顔でにこにこ。検察官は憮然とした表情で立ち去り,弁護人と被告人は固い握手を交わしていました。
なかなかドラマチックなトライアルで,見た甲斐がありました。
先日,大学の講義で面識を得たPublic Defender事務所の弁護士のトライアルを見せてもらいにいきました。
事件は娘(42歳)が母親(70歳?)にけがをさせたという傷害 (assault)。要は親子げんかで,けんかに至る詳しいいきさつは英語聴き取り能力の問題により分かりませんでしたが,娘が母親をテーブルに向かって突き倒し,その際右頬付近にひっかき傷を負わせたようです。
陪審員に示された写真と,証人として出廷した母親の様子から見ると,けがの程度はひどくなく,後遺症もないようです。日本なら起訴猶予か?とも思いましたが,前科・前歴によっては違うのかも(前科・前歴の資料はトライアルでは出されず,sentenceの段階で初めて出されるので前科関係は分かりません。日本の裁判員制度は罪体と量刑が分かれておらず,裁判員に前科資料も見せますが,やや問題ありの気がします)。
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陪審員の選任が午前10時30分ころから午前11時30分ころまで,その後裁判官から陪審に対する説明に続いて双方の冒頭陳述。
弁護人の冒頭陳述 (opening statement) は,vulnerable victimはdefendantの方だというものでした。小さい時から何十年にもわたり母親からの身体的・心理的abuseを受けたことにより,娘には母親に対する恐怖心が植え付けられており,母親からけんかを売られたことによりけがを負わされるのではないかとおそれ,自己を防衛するために必要最小限の暴行を行った,Self defenseであるというものです。Sad story.
法廷に,譜めくり台みたいなもの(日本のお笑い番組でピン芸人がペラッ,ペラッとめくっていくようなやつです。それで上が綴じてある。呼び方が分からないので以下「譜めくり台」と仮称します)が設置してあります。弁護人は,冒頭陳述の際,それを陪審員に向け(裁判官には見えなくてもよい),マジックで"VULNERABLE VICTIM"とか"Self-Defense"といったキーワードを大書していきます。講義の時に見せてもらったのでは,キーワードやキーセンテンスを印刷した紙のボードを持参し,陪審員に見せながら弁論することもあるようです。
これは報告書でも書いたことなのですが,日本で「分かりやすい審理」ということで裁判員模擬裁判をやると,何かにつけパワーポイント,パワーポイントと,そればかりに頼りきりになっている気がします。アナログな情報の方が印象に残りやすいこともあるでしょうし,もっと創意工夫の余地があるんじゃないかと思います。
午前中は被害者 (alleged victim) の検察官主尋問まで。午後1時45分から反対尋問。弁護人は,ここでもポイントとなる年月日やキーワードを,陪審員に見えるよう譜めくり台にメモ。この母親は「ええ,こうこうこういう時には娘を叩いてました」と普通に証言。えー。しかもベルトとかで。
その後,現場を直接は観ていないのでよく分からないという親族2人(この証人いるか? と疑問),警察官1名の証人尋問があり,最後に被告人質問。
弁護人が"Do you love your mother?"と聞くと,被告人は"Yes..."と泣き出してしまいました。"How do you feel to see the mother testify against you?"という質問には,検察官からobjection (sustained)。
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被告人質問が終わった段階で午後4時10分。これは評議は明日だなぁと思っていたら,裁判官がinstructionを開始。引き続いて検察官・弁護人の順にclosing argumentを行い,最後に再び検察官がargument(Maryland州では検察官に最終弁論権があるようです)。
弁護人が弁論で譜めくり台に何を書くかと思っていたら,"LOVE & FEAR"というセリフ。娘は母親を愛してたんです,でも同時に大きな恐怖があった。それぞれの文化,慣習,伝統があるのはいい。でも子供をぶつというのは? Not OKだ(親子がメキシコからの移民なのを踏まえて)。
それからpresumption of innocence, burden of prrof, beyond the reasonable doubtの説明。ここでは再現できないのですが,25分間にわたる熱い弁論でした。――さっき裁判官は,最後に検察官が弁論をすると言いました。でもそれは間違いです。Last wordを持っているのは検察官じゃない。あなた方なんです。You have the two words: NOT GUILTY.
双方の弁論が終わったのが午後5時15分。疲れたしお腹もすいてきたなぁという時間に,陪審員は評議室へ移動。傍聴席で本を読んで待っていると,午後5時45分ころ評議室からノック。30分で評決が出たらしい。
いったん解散していた検察官・弁護人・被告人が呼び戻されて再び開廷。緊張の一瞬,陪審員長が宣言した評決は? ――Not guilty.
裁判官は良い評決が出たねという顔でにこにこ。検察官は憮然とした表情で立ち去り,弁護人と被告人は固い握手を交わしていました。
なかなかドラマチックなトライアルで,見た甲斐がありました。