子供達は朝から野球へ出掛けていて、
夕方まで帰らない。

主人は明日から1週間の間夜勤に入る。
そのため昼の3時までは眠る事を決め込んでいるようだった。

私は朝から何も食べていなかったので、主人が起きる頃とてもお腹が空いていた。彼は寝起きが悪く、朝は食欲がわかないので全く物を食べない。

私は、主人に王将に餃子を食べに行こうと誘った。空は青くて日差しがとても眩しかった。
彼は機嫌が悪そうだった。

私はおかまいなしで、今朝思いついた物語に夢中になってしまっていた。考えついたあらすじを誰かに話したくて話したくて仕方がなかった。

主人に話そうとしても機嫌が悪くてとても聞いてくれそうにはなかった。
機嫌が良くてもいつも聞いてくれないのだけれど。また今度ね、と言って適当にあしらわれてしまう。

彼が普段本を読まない事と何か関係しているのだろうか。私は彼が物語を聞かない理由が何なのかとても気になっている。

物語と現実のちょうど間にいるみたいに。私はぼんやり考え事をしながら街を歩く。
車の群れが、ごうごうと音を立て流れて行く。
今まで行き来していた車は青信号になった途端、
モーゼがつえを振るったみたいに静かに道を開いた。まるで私達夫婦を王将に導いているみたいだと思った。

私は今ショートストーリーを書きたいのだ。
初心者な物書きは、なるべく簡単に書けそうな短いあらすじが良いと思っていた。

とびきり面白い案が閃いて、あらすじが決まった。後は人物背景を考えて詳細エピソードをはめ込むだけだったのに、登場人物全ての性格を考えて行動させて行くと、とてもショートにはおさまりそうにない。

毎回この繰り返しだ。
凄く面白い話を思いつくのに、人物詳細を練り上げて行くと、そこそこ長い話になってしまい、ストーリーを完成させる前に別のストーリーに目移りしてしまう。

こうして4日前から小説を書き始めて、制作途中の話が5話分、あらすじや結末は決まっているのに詳細エピソードで待機している状態のものばかり。


先輩の物書きは、
いくつもの話を同時進行で制作しているのでしょうか、それとも一つづつ完成させて行く方が良いのでしょうか。どなたかアドバイスをお願いします。


その後2人は王将で瓶ビールと、餃子3人前と酢豚を頼んだ。彼は相変わらずの猫舌で、熱々の餃子を食べられない。彼はぶすっとした表情で、ビールをちびちびと携帯をいじっているだけだった。

餃子を一人前ほど残し、後は殆ど私1人で食べてしまったが、彼は本当につまらなそうで、早く残りも食べろとわたしをせっついた。

これを期に彼のイライラは、私に伝染し始める。

向かいの席では白髪のおじさんと若い女性が年金の話をしている。住民税を差し引くと月に6万円しか受け取れないとぼやいていた。

世知辛いなぁ。なんかこう、もっと面白い話をすればいいのに、と会話の無い私達夫婦を棚に上げて文句をつけた。

私は怒りを含んだ目で見つめるふりをして、彼の向こう側にいるおじさんと女が本当に親子なのか覗き込んだ。少し首を傾げて、彼越しのおじさんを見る。やはり愛人ではなさそうだった。娘か、会社の会計係だろうか。

彼は突然、つまらないので早く帰りたいと言い出した。だから仕方なく向かいの2人の詮索をやめて、彼と喧嘩を始めることにした。

私も、貴方の機嫌が悪くてつまらないからもう帰りたいと伝え帰り仕度を整えて伝えた。
彼は、ビールと餃子がまだ残っているから早く食べろと言ってきた。
私はもうお腹がいっぱいで、食べられそうもなかったので、軽く言い争いをした後、私は先に帰ると伝え怒ったふりをした。

お金を払ってから、彼と餃子一人前を残し家路につこうとしたがふと思い出すと、自宅の鍵は彼が持っていた。
再び戻り、彼に鍵を渡すように言った。
彼は、少し鍵を渡すのを拒んだが、先に帰ると伝えると渋々ポケットから出して手渡した。

向かいの2人も帰る様子で会計をしていた。
携帯を2台分購入したばかりの様子で、auの小さな紙袋を2つ下げていた。やはり親子なのだろうか。

彼と別れて1人で店を出ると。
王将の店員達は、私に何も言わなかった。
私は知らず知らずのうちに、声をかけられないオーラを放っていたのかもしれない。

いつもなら、ありがとうございますと一声貰えるので、私はにっこりご馳走様でしたと言う事が出来るのだ。
その後、主人に「ご馳走様でした。美味しかった、ありがとう。」を伝えるのだが、今日はそれが叶わない日だった。

私達は、一月に一度くらい喧嘩をしている。
今日のは喧嘩と呼べるほどの規模ではなかったが、彼のおかげで私は怒りを表現したり、自分がどうして怒ったのか知る事が出来る。