ハチが住む場所から私のところまで、9時間ほどかけて走り続ける深夜の長距離バス。
そのバスに乗って、ハチは隔週で大阪へやって来る。
そのバスに乗るために、どーーうしてもハチは食事代を浮かすのだ。
一日一食生活。
私が行くからと言っても言うことを聞かないし、何度言っても食べてくれなくて、ハチは私と付き合い始めてからずいぶんと痩せてしまったみたい。
調子がいい時はいい。仕事も友人関係もスムーズに円満で気持ちが上向いている時は、多少の疲れだって気にならない。
でもそうじゃない時は、体が疲れているハチのほうがどうしても気弱になってしまう。
いつこっちに来れるの?
もうもたないよ。
大好きな父の一周忌を無事迎えるまでは、私はここにいたいんだ。
そして仕事にもきちんとけじめをつけたい。
責任を果たしたい。
私の我侭とハチの不安の折り合いをつけるために、
「入籍してもいいよ」と言ったのは私だ。
プロポーズは4月に受けているけれど、来年まで待てないと言うなら先に籍だけ入れてもいいよという提案だった。
それで少しでも来年まで気持ちを強くもてるなら、と願ったのだけど…
すっかりその気になってしまったハチは少し勘違いをしてしまったようだ。
「いつ準備するの?」
「・・・そんなに急ぐことないでしょ?」
「・・・なんで?」
「だって来年でしょ?」
「・・・言ってる意味がわからない」
「私もわからない」
「・・・いつこっちに来るの?」
「来年…」
「来年?」
「言ったやん」
「・・・・・・・九月じゃないんだ・・・・・・・・・」
電話口でガックリきてる姿が鮮明に目に浮かんで、こんな勘違いのすれ違いがあっていいのかと目の前が真っ暗になってしまった。
