「なぁ~ジャック~」
「あ~。何だよ!追いかけてくるな!」
「ふられたよぉ~」
「わかったから!気持ち悪いんだよ!」
マチコからあんなこと言われるとは思ってなくて。
『小林君。私、小林君の友達よね』
友達…。俺たちはそれ以上の関係じゃなかったっけ?
『そう、友達なの』
でも、マチコがそう思ってるのなら…。
『そうなんだ。そうだね、友達だよね。うん』
俺がやっぱり、一方的に恋人だって思ってただけなのか。
否定したかったけど、価値観を押し付けてしまう気がして、
言うのをやめた。
「…う~ん。それは、言うべきだったんじゃないのか?」
「ええええ~?言えないだろ?普通」
「俺は言うぜ。多分」
「強いなぁ」
「お前さぁ、いいこと教えてやるよ」
「何?」
「格好つけすぎなんだよ」
「…そうか?」
「普通考えないぞ?とっさに価値観を押し付けるとかなんとか」
「でも、女ってそんな感じかもって」
「感情に男も女も無いと思うんだけど」
「どういうこと?」
「じゃあ、何か例は…。あ、シャーペンでいいや。
例えばだ、俺がこのシャーペンを持ってたとする。
お前はこれが欲しいと思うか?」
「ううん。ただのシャーペンだし」
「じゃあ、このシャーペンは五千円するんだって俺が言ったら?」
「そりゃ、欲しいよ」
「な?」
「な…って、良くわからないんだけど」
「要は、どんなことも言わないとわからないってことだ。
それは男も女も一緒だろ?
自分の気持ちを言わなければ、価値も必要か不要かもわからない」
「そうか」
「いいか?お前はマドンナを否定しなかったために、
値段を言う前のただのシャーペンになったんだぞ?」
「…うわぁぁぁ!」
「後悔してるだろ?」
「うん。すごくしてる。よし、もう一回いってこよう」
「どこに?」
「どこにって、マチコのところに決まってる」
「え?もう駄目だよ」
「何でだよ」
「後藤は素直に言ったらしい」
「…うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「諦めろ」
「諦められる訳ないだろ!ああああ!」
「自業自得とはこのことだな」
「どうすればいいんだ~!」
「どうしようもない。あ、俺、もう行かなきゃ」
「もうちょっと慰めてくれよ」
「一人で落ち込んでろ」
「冷たいなぁ」
一人の帰り道は寂しいなぁ。
たった一ヶ月前まではマチコと歩いてたのに。
(お気の毒~)
え?…誰だ?
振り返ると、黒猫が俺をじっと見つめていた。
「お前、話せるのか?」
(にゃー)
話せるわけないよな。空耳だ。
明日からどう暮らせばいいんだ?
「はぁ~。駄目だ~」