イル・モーロの軍隊がヴェネチア制圧に失敗した後、シャルル8世の後を継いだルイ12世がイタリアに侵入。フランスのサヴォアやマントヴァもヴェネチアと同盟を組み、さらにローマ法王アレキサンデル6世も、イル・モーロに対抗する同盟に参加した。イル・モーロはレオナルドに一刻も早く新型兵器を開発するよう命じたが、時は既に遅く、間に合わなかった。戦争によって多くの血が流され、スフォルツア城は陥落。とうとうイル・モーロはアルプスへと落ち延びていった。ベッキア宮殿にあったレオナルドの巨大な騎馬像の型も、フランス軍の兵隊達が面白半分に破壊してしまった。
「人間が地球上に現れてからというもの、お互いに戦うことしかして来なかった!もっと平和な時代が訪れるまで、この技術は封印する。」怒りと悲しみの中、レオナルドはエネルギアに関する全ての記録を燃やし、試作品を壊した。今となっては敵のフランス軍だけでなく、味方のミラノ軍にさえもこの新技術を渡す気はない。全てを無に帰すと、レオナルドはサライ、ゾロアストロ、パチョーリ達と共にミラノを後にした。
ミラノ市街から随分離れた頃にサライが言った。「やっぱり、もったいなかったね。エネルギアの戦車があれば、フランス軍なんて簡単にやっつけられたのにな。」その時は何も言わなかったが、レオナルドは川辺まで来ると馬から降りて、サライに言った。「サライ、川に手を入れてごらん。」「うわっ、冷たいや。」「今、その手に触れている水は、過去から流れて来る最初の水でもあると同時に、未来に流れ行く最後の水でもある。この水の流れは、サライがやって来たという世界にもつながっているんだよ。神様がどういうつもりで私とサライを出会わせたかは知るすべもないが、現代と未来の両方を守るために、私はこの新技術を封印したのだ。分かるかい?」サライはレオナルドの目を見て、ゆっくりと頷いた。
レオナルドはサライを馬に乗せると、ミラノの方角を振り返えることもなく、ヴェネツィアに向かって旅立って行った。
終わり
*このストーリーは史実に基づいていますが、フィクションです。
参考文献
レオナルド・ダ・ヴィンチの生涯 ブルーノ・ナルディーニ 1976年 筑摩書房
知られざるレオナルド ラディスラオ・レティ著 1975年 岩波書店
天才レオナルド・ダ・ヴィンチと少年ジャコモ グイド・ヴィスコンティ著ビンバ・ランドマン絵 2000年 西村書店