一般に,企業が新規顧客ひとりに商品やサービスを販売するために要するコストは既存顧客(リピート顧客)ひとりに販売するために要するコストの5倍程度掛かるといわれております。こうした現状を考えた場合,新規顧客よりも既存顧客に商品やサービスを販売した方が効率的に収益を上げることが可能になると考えられます。
 既存顧客に新たな商品やサービスの購買を推奨することを「クロスセリング」 ,購入しようとしている商品やサービスよりもグレードの高い商品やサービスの購買を推奨することを「アップセリング」と呼びます。
 例えば,ファーストフード店においてハンバーガーを購入した場合,「ポテトも一緒にいかがですか」と他の商品やサービスの同時購入を推奨する方法をクロスセリング, 「あと20円でチーズバーガーに変更できます」とよりグレードの高い商品やサービスの購入を推奨する方法をアップセリングと呼ぶ,といったようにです。

 

 

 

【来店顧客に対する購買推奨】
 顧客の来店時に他の商品やサービスの同時購買を推奨するためには,予め,顧客がどのような商品やサービスに関心を持っているのか,を把握しておく必要があります。顧客が関心を持っている商品やサービスを予め把握する方法として,一般的に行われている方法を2つご紹介します。
 
【1. 顧客のクラスタリングによる方法】

 一般に,過去の購買履歴,顧客属性を基にクラスター分析等を用いて顧客をクラスタリングすることで,顧客を特性の類似したもの同士に分類することが可能となります。下の表は自動車販売代理店における既存顧客を購買履歴と顧客属性を用いて特徴の類似したもの同士に分類した結果です。


 

 この分析結果より,クラスターⅠに属する顧客群は「庶民的な車」を,クラスターⅡに属する顧客群は「ファミリー向けの車」を,クラスターⅢに属する顧客群は「環境対応型高級車」をそれぞれ好む傾向が強いことが分かります。

 更に,各クラスターに属する顧客について,性別,年齢,年収といった3つの顧客属性についての平均値を集計した結果を下の表に示します。

 


 この結果,各クラスターを構成する顧客群について,以下のような特徴があることが分かります。

 

【クラスターⅠに属する顧客群】  女性構成比率が高く平均年齢が30歳前後と低めである。

年収は400万円台とやや低めである。
【クラスターⅡに属する顧客群】  平均年齢が40歳半ばである。年収は600万円台である。
【クラスターⅢに属する顧客群】  男性構成比率が高く平均年齢が50歳代と高めである。
年収は800万円台と高めである。

 

 これらの分析結果を基に,クラスターⅠに属する顧客が来店した場合には,比較的価格の安い「庶民的な車」への買い替えを,クラスターⅢに属する顧客が来店した場合には,比較的価格の高い「環境対応型高級車」への買い替えを推奨することにより,効率的な購買推奨を行うことが可能になると期待できます。

 

【2. 併買行列の作成に基づく方法】
 下の表は併買行列と呼ばれるマトリクスです(自動車部品の売り上げデータを基に作成しました)。これはある商品を購入した顧客のうち何人が別の商品を購入する傾向にあるか,を集計した結果です。併買行列を作成することにより,ある商品を購入した顧客が次に購入する可能性の高い商品を一目で把握することが可能となるため,購買推奨すべき商品を一目で把握することが可能になります。

 

 

分析を行った結果,

〇 バックカメラを購入する顧客の多くはナビゲーションを同時購買する傾向がある。
〇 ETCを購入する顧客の多くはセットアップサービスを同時購買する傾向がある。
〇 併買行列を利用することにより,顧客が同時購買する傾向の高い商品群を容易に見つけ出すことが可能となる。

という傾向があることが判ります。