川の流れに小さな命を見ました | バイカルアザラシのnicoチャンネル

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 サイコロジストの日常と非日常を季節の移ろいを交えて描いています。バイカルアザラシのnicoちゃんの独り言です。聞き流してください。

 紀伊半島の中央部に東西を貫く一筋の川があります。台高山脈に降った雨は分水嶺を隔てて西は紀ノ川に、東は櫛田川に流れます。二つの川は千古流れて留まるところを知りません。

 

 何とも不思議な奇岩、マイロナイトでできています。紀ノ川と櫛田川は中央構造線が走っています。両川の北側は花崗岩、南側は緑色片岩で形成され、その境はマイロナイトという幅400mの変成岩でできています。つまり、マイロナイトのベルトをたどっていけば、それは茨城県の鹿島から渥美半島、紀伊半島、四国の讃岐山脈や佐多岬半島まで連なる巨大断層なのです。

 

 ここに小僧淵という深い淵があります。小僧さんが出家してお寺に入りました。ある日、お坊さんが小僧さんを連れて良家の檀家のお弔いに出かけました。そこにいたのは一人の娘でした。小僧さんは娘さんを好きになりました。それでも日に日に募る想いは深くなり、川の縁のように深く深くなるばかりです。思い詰めた小僧さんは、ここの岩から身を投げました。人々はいつからかここを小僧淵と呼ぶようになりました。

 

 今日も川は流れています。時間が流れるように、ただ黙って川も流れています。ただ残っているのは、完結できない想いを抱いた命がここで消えたと言うこと。時も流れて川も流れて、姿形は変わるのですが、小僧さんの想いは変わらずここに留まっています。いつまでも残るものはこの世にあるのでしょうか。これが今を生きる私たちの時代なら、小僧さんにどんな展開があったのでしょう。