日本において、小学生・中学生でのテニス競技人口は、野球に比べれば微々たるものです。
足下にも及ばない。
社会人になってもテニスをしている人には、高校・大学の部活動や社会人になってからテニスを始めた人が多く含まれています。
そして「テニスコーチ」を生業としている人たちでさえも、ジュニア時代の競技経験が無い人が多く含まれているのも、テニスの特徴です。
例えば、野球やサッカー、バスケットボールにおいて、指導者を生業としている人のなかで、競技者としての経験が無かったり、高校から野球などを始めた人の割合がどれだけあるのか、と考えると、テニスはそういう「遅咲き」の人の多い部類に入るのではないでしょうか?
(もちろん、ちゃんと「咲いている」かどうかは、別問題として)
YouTuberとして動画をアップしている人たちのなかにも、ジュニア時代からテニスに取り組んできた人たちがどれぐらいいるのか、と考えるとかなり低いように思えます。
一方、ジュニアからテニスに取り組んできた人の中には「感覚」だけで打てるようになり、再現性と対応力だけで競技を続けてきたような人が結構います。
正直に言えば、伊達公子さんやYouTuberとして有名な金子さんなんかのフォームは、現代テニスではおそらく「良い例」として取り上げられることはほぼない。
それでも、これまで何回も言っているように、自分ができないからダメ、というのではなく、分析・解明・説明が的確であれば問題はありません。
しかし、技術の習得の過程を「感覚」でやってきた人たち全員に、それを求めるのは酷です。
一方、高校生以降にテニスをやり始めた人たちは「頭」で考えてきた人が多い。
それができない人は、そもそも上手くなれていませんし(笑)。
しかし、それが「徒(アダ)」にもなります。
そういう人たちは、試行錯誤しながらテニスを続けていた中で、「自分なりのテニス理論」ができやすいからです。
問題なのは、その「自分なりのテニス理論」による競技力の向上が「成功体験」として刻まれることで、その「自分なりのテニス理論」に固執するようになってしまうことです。
しかもこの「成功体験」は、相対的なものとは限りません。
「上手く打てた」「上達できた」という主観的なものでも十分、その人を満足させることができる。
「自分史上で最もうまくなっている」というだけで、その人は満足なのです。
これは、大会の出場経験が非常に少なかったり、非常に低レベルな大会で勝つことを覚えてしまった人、仲間うちだけでしかテニスをしたことのない人に多い。
客観的な指標となる「経験」が、少ない、または浅いものになるからです。
団体競技のように、上手いチームメイトとレギュラーを争ったり、自分のミスで周りの足を引っ張って怒られたり、という経験をしていれば生じない心理状態ですし、上位大会を目指しながら何度も敗退したり、全国レベルの対戦相手にぶつかってしまい実力の差をまざまざと見せつけられるような、本格的な競技経験があると、生半可な「成功体験」を打ち消すような「挫折感」を味わうことになり、
「テニスで食っていける」
などとは到底思えないものなのです。
同じ「県大会出場レベル」にも関わらず、かたや趣味でテニスを楽しむだけの人がいれば、かたや職業コーチになろうと思う人の違いは、そこじゃないかなぁ、と思います。
つまり努力して「自分なりのテニス理論」によって上達したと「感じてしまった」人ほど「勘違い」をしやすいのです。
そのくせ、その「自分なりの理論」によって高レベルの大会で上位大会に出場することができた、とか、インターハイやインカレなどの全国レベルの選手とも渡り合えた、みたいな客観的な指標は存在しない──つまり「箔付け」がない。
そのため、その「不足」を補完しようとして、あれこれとプロの動きから都合の良い「ポイント」を取り出して、後付けでこねくり回し、独自性を際立たせようとする(笑)。
「自分の理論は、プロでもやってないような、オリジナリティーのあるものだ」
と開き直る(笑)。
結局は、まずは「自分の理論」ありきで、そこから「演繹法的」に理論武装をするような感じです。
そういう人に限って「自分はできていない」という謙虚さのかけらもないから、さらにたちが悪い(笑)。
あくまでも自分のやり方、が最高基準もしくは世界基準であり、自分はこれで成功した、というのが前提だからです。
僕自身は、できる限り「帰納法」的なアプローチで理論を形成するようにしています。
さまざまなプロに共通する動きを参考にし、最大公約数的な動きを見つけ出す。
それこそが万人に通用するテニス理論であると信じているからです。
だからこそ、動作分析は細かいところにまで目を向けなければいけない。
自分のフォームとの共通点が見つからないかもしれない、ということを肝に銘じながら。
自分のフォームは間違っているかもしれない、という、ある意味、自虐的でかつ認めがたい現実を常に心に留めながら、技術の向上に取り組まないといけません。
自分の低レベルな成功体験に溺れて、勘違いをするよりは圧倒的にマシですから。
まずはさまざまなプロの動きを参考にしましょう。
そして、その共通点を「動き全体」のなかから見つけ出し、「どうやっているのか」を隅々で分析し、「なぜそういうふうにやるのか」を徹底的に解明しましょう。
それが、遠回りに見えて、実は一番の近道だと思います。