これまで、ストロークでのテイクバックについては「テイクバックの大きさと『二度引き』」シリーズや、「フォームの改造」シリーズの「その9」~ で、詳しく話したことがあります。
ですので、詳しい話は、そちらをぜひ読んでいただきたいのですが──
テイクバック~フォワードスウィング~インパクト~フォロースルー という流れは、本来は自動化すべき動きになるので、フォームをチェックしながスウィングする、という、本来あるべき姿とは真逆のことをやりながら、修正しないといけなくなる。
そのため、どうしても時間もかかりますし、上手くいかないことも多々あるのです。
実際には、全体的なフォームを全部一度に変えようとせず、ポイントを押さえながら、一つずつ解決していくという手法が無理がありません。
ただし、その場合「こちらを直したら、こっちが崩れた」ということもままにして起こりますから、的確なアプローチと分析、そして、
「今は、フォームの修正中だから、打てなくてもしょうがないや」
という、開き直り(笑)と、開き直れるほどの時間の余裕が必要になります。
問題なのは「テイクバック」という、本来はボールの行方に直接は影響がないはずの「ただの準備動作」であり、しかも視界の外側で行われるため、チェックもしにくく、そのくせ、一旦、直し始めるとドツボにハマる(笑)、その要素について、どうアプローチしていくのか、ということになります。
そして、テイクバックで一番問題になるのは、その大きさです。
もちろん、ソフトテニスほどに大きなテイクバックは論外ですし、うちのチームでも、新入部員の中でソフトテニス経験者は、毎年のように修正します。
ただ、男子プロのようなテイクバックの小ささが、本当にアマチュア・プレイヤーに必要か、ということ。
さらに、必要だとしても、みんながそれを実践できるか?
実践するのにどのような条件が必要なのか、ということです。
たとえば、よくある「実験」として、次のようなものがあります。
これは、よく巷のテニス・スクールなどでも実演されますし、YouTubeでも見かけますから、みなさんもやったことがあるかもしれません。
それは、テイクバックが「大きい」ときと「小さい」ときで、ボールのスピードや飛距離に差が出るのか確かめる、という実験です。
その実験結果は、大抵、
「テイクバックの大きさによって、ボールのスピード(飛距離)に違いがなかった」
というものになり、だからこそ、テイクバックは小さくしましょう!という結論に持っていく、というのがセオリーです。
が、これは、そもそも、科学的に間違った実験です(笑)。
実験そのものが間違いなのではありません。
仮説の立て方や考察の仕方が、乱暴すぎる──というか、短絡的すぎるのです。
ボールのスピード(飛距離)は、ラケットのインパクト時のスピードに依存しますが、この実験で立証されているのは、
「テイクバックが小さくても、テイクバックが大きいときと同じぐらい『ラケットのインパクト時のスピード』が出せる」
ということでしかない。
問題なのは、その「インパクト時のスピード」を出すのに、どれだけの「労力」が必要か、ということのはずなのに(笑)。
同じラケットスピードが出せたとしても、大きなテイクバックは簡単に出せるけど、小さなテイクバックだとかなり頑張る必要がある、というのでは意味がありませんし、その「頑張った」せいで、コントロールがなくなる、というのでは本末転倒なわけです。
だからこそ、この実験は意味がない。
「頑張る必要があったかどうか」というのは、人それぞれの筋力などにもよりますし、フォームにもよります。
テイクバックが大きくたって、非合理的なテイクバックなら「頑張り」が多く必要になるはずですし。
そもそも、科学的に検証してる「体(てい)」にしていること自体が、スウィングの本質を理解していない証拠になってしまうのです。
特に最近、男子プロのスウィングを「ATP」的なスウィング、女子プロのスウィングを「WTA」的なスウィングとして分けている動画がかなり増えました。
これそのものは、男女での技術差があることは明らかですし、考察としてすごく面白いと思います。
が、これをそのまま、
「『ATP』的な打ち方の方が上」
というふうに短絡的に取り入れるのは危険なのです。
だって、たぶん、皆さん、女子のプロより、筋力ありませんよ?(笑)
なのに、なんで、女子のフォームをすっ飛ばして、男子のフォームをマネようとしてるんでしょうか?
いや、男子のフォームをマネしようとするのはかまわない。
かまわないんですが、その理由が、
「『ATP』的な打ち方の方は、効率がいいから参考にすべき」
というのはチャンチャラおかしいのです。
男子プロの筋力や運動能力を全く無視してしまっている。
よほど、
「フェデラーのフォームが格好良いからマネしたい」
っていうミーハーな理由の方が、しっくりくるのです。
みなさんもぜひ、テイクバックの「大きさ」を決めるときには、自分の筋力や運動能力と相談しながら、いろいろ試してみてくださいね。