うちのチームは、女子テニス部ということもあって、今回ご紹介したいくつかのトレーニングも、大きく筋肉を肥大させるようなものは少なかったと思います。
故障を予防するもの、そして体のスムーズな動きを補完するための筋力をつける、というのを目的にしているものがほとんどです。
生徒自身が、ムキムキの体になることは嫌がりますし(笑)。
何度も言いますが、筋力トレーニングに費やす「時間」と「労力」が、その1人1人が目指しているパフォーマンス向上にどれだけ寄与しているか、という「費用対効果」とのバランスで考えなければいけません。
「なんとか県の大会で1回は勝ちたい!」
と思っている高校生に、
「ナダルのように打つためには、これだけの筋力が必要だ!」
といって、プロと同じような体つきにさせる必要はないわけですからね。
下手をしたら「県で優勝」という目標でさえ、必要ないかも知れないようなレベルなわけですから。
そこら辺を勘違いし、1人1人の「ニーズ」を無視して、
「筋トレをしないと絶対に上手くなれない」
っていうのは間違っていますし、逆に、
「筋トレをしても無駄だ」
というのも違うな、と思うのです。
また、僕が部活動で生徒に筋トレを指導するときに気をつけていることは、
① 適切なフォームで行っているか。
② 手を抜いていないか。
というこの2つです。
①はもちろん、狙った筋肉を鍛えられているか、怪我をしないか、にも関わりますから大事なことなんですが、問題は②です。
たとえば、生徒に腕立て伏せをやらせるとして、肩甲骨は動かさず、体をまっすぐにして、しっかりとヒジを90度以上曲がるところまで体を下ろす、という理想のフォームを生徒に説明しますし、そのようなフォームでやるように指導はします。
そして、その腕立て伏せを20回させるとして、実はそのときに僕は完璧に20回こなすことを求めません。
生徒1人1人筋力が違いますので、たとえば僕が「20回」という回数設定をしたときには、それはメンバーのうち、一番筋力がある生徒に合わせた設定だからです。
ですから、まともにやったら20回できない生徒も多い、と分かっているわけです。
単に20回を「こなす」ために、間違ったフォームで20回行うよりも、正しいフォームで15回までやって動けなくなる、っていうほうが、その生徒の筋力は鍛えられてるはずですからね。
しかし実際には、チームとしてみんな一斉にやっていますから、回数が少なくてもOK、というわけにはなかなかいきません。
そのため、多少フォームが崩れていても──たとえば、肩動いていても、ヒジの曲げ方、体の落とし方が甘くても、そして、休み休みでも、僕の中ではOKにしています。
もちろん、口では常に正しいフォームの指導はし続けますし、休み休みを黙認しながら、長時間は休ませず、あくまでも生徒には、こちらが妥協しているようには見せません。
そこらへんのさじ加減をしっかりやって、生徒が手を抜けないギリギリのところを攻めさせるわけです。
HIITをやるときにも、正しいフォームで「速く」行うように指導をする反面、1人1人の回数の違いにはこだわりません。
その生徒が正しい方法で一生懸命やってるかどうかだけを見ます。
例えば、体力のあるAさんがHIITのバーピーで、20秒間に8回できたとします。
今度は体力の劣るBさんに同じことをさせたとき、Aさんと同じく8回できなかったらBさんを怒る、のは理論上おかしいわけです。
だって、体力の劣るBさんが8回できたとしたら、Aさんは体力があるにもかかわらず8回しかしなかった、ってことになるわけですから。
今度はAさんを怒らないといけなくなる、という矛盾が生じる。
トレーニングのときに他の選手よりも「遅い」「少ない」「続かない」ということだけで怒る、というのは理論上おかしいのです。
手を抜いたり、ズルをしたりすればもちろん叱りますが、普段のトレーニングから、回数が少なくても、遅くても、続かなくても、指導されることはあっても怒られることはない、ということが分かっていれば、生徒はズルをしなくなります。
トレーニングをサボっていたり、取り組みが甘いのが原因で、他の選手との「差」が生じたの場合もあるので、それは指導しなければダメですが。
その代わり、「速く」「多く」「長く」トレーニングができた選手を、正当に評価し、褒めてあげる必要もあります。
そうすることで、能力が高い選手も「これぐらいやれば怒られない」と勝手にラインを作って手を抜くようなことがなくなり、より速く、長く、回数をこなそうとしてくれるからです。
怒られるからやる、怒られないからやらない、という雰囲気が筋トレにとっては最も不毛なものだと思います。
もしもこのブログを見ている指導者の方がいらっしゃったら、自分が「全員が同じ回数をこなすこと」「全員同じ筋力を持つようになること」にこだわっていないか、もう一度、考えてみてくださいね。