スタビライゼーションの利点や問題点の3つ目です。
○ 通常の「動的な筋力トレーニング」で十分ではないのか
これは生理学的なところになるのですが、筋力には大きく分けて3つの要素があります。
① 最大筋力
② 瞬発力
③ 持久力
この3点です。
① 最大筋力が高くても、それが一気に出せる②瞬発力がなければ、テニスのような競技では役に立ちませんし、③ 持久力がなく、すぐに動かなくなるのでは困ってしまいます。
そしてこれらを鍛えるにはそれぞれ適切な負荷の大きさや回数があり、それを知らないと上手く鍛えられません。
また、筋肉の動きにも、大きく収縮するような動き(アイソトニック:等張性)と、筋肉の長さを維持するような動き(アイソメトリック:等尺性)があり、スタビライゼーションは主にアイソメトリックのほうになります。
筋肉は脳からの神経系の命令によって動きますので、これらのトレーニングは、筋力そのものだけでは無く、脳から的確な指令を出す、神経系のトレーニングでもあります。
つまり、たとえば腹直筋、外腹斜筋、脊柱起立筋を鍛えようと思った場合、上体起こしや上体そらしを繰り返すトレーニングだけでは、アイソメトリック的な神経系の訓練ができないため「姿勢(軸)を保持する」という目的を達成には不十分な場合があるんだ、ということになります。
だからこそ、多くのプロアスリートがスタビライゼーションに取り組み、これほどに全世界で活用されているわけです。
逆にいえば、上体起こしや上体そらしのようなトレーニングをしなければ、大きな動きを実現できるような筋力は得られにくい、とも言えるわけです。
問題にすべきは、それぞれの競技の特性としてアイソトニックな動きとアイソメトリックな動きの、どちらをどれだけ重要視してトレーニングするか、という「選択」のしかたになるのです。
これと似たような考え方になるのですが、バランスボールやバランスディスクを使ったトレーニングにも注意が必要です。
これも以前お話したことがあるのですが、バランスボールの上でバランスを取るとき、もちろん体幹の筋力が極端に弱い人には無理かも知れませんが、多くの場合、数日間でできるようになります。
数日間で筋力が向上するわけがありませんから、これは単純に「技術」の問題なのです。
慣れれば慣れるほど、神経系の訓練が習熟し、体に無駄な力をいれなくても良くなるのです。
「バランス感覚」と呼ばれるもので、単純に三半規管や前庭の機能というだけでなく、バランスを取るためにどのような筋肉をどんなふうに効率よく使うと良いか、という「神経系のトレーニング」にはなるのですが、単純な「筋力トレーニング」として取り組むには効率が悪すぎるのです。
つまり、バランスボールやバランスディスクを使って「体幹」を鍛えようと思うのであれば、結局それなりの「負荷」をかけなければ意味がない。
たとえばバランスディスクの上でスクワットをする、とか、バランスボールの上で両手を離して立つ、とか。
ただこのときにも、バランスボールやバランスディスクに乗って鍛えられる「バランス感覚」によって軸を維持することを、どこまでを求めるのか──モーグル選手のように、バランスボールの上で両手を離して立てるほどのバランス感覚と体幹が、テニスには必要なのか──ということを「コストパフォーマンス」として考えなければいけません。
もちろん、こういうトレーニングを取り入れると気分転換にもなりますし、バランス感覚を鍛えられるのは間違いないわけで、「こんなトレーニングは必要ない」というつもりもないんです。
ここら辺が、筋トレ否定派だけでなく、筋トレ推奨派も勘違いする場合があるので気をつけましょう。
YouTubeなどで「プランク」「スタビライゼーション」などと調べると、トレーニング方法を解説しているものが五万と出てきます(笑)。
正直、どれが正しくてどれが間違っている、というものではないですし、自分が鍛えたい部位と比較してやってもらえればなぁ、と思います。
【次回へ続く】