前回の続き。
さて、サーブを学ぶ上でのポイントは「ゴールをどこに設定するのか」と言うことだと思います。
まず確認しなければいけないのは、ゼロポジションや「内旋+回内」を活用したサーブが理想であるとはいえ、それを完璧に実現できる女子選手は全員では無いこと。
やはり中には、どうがんばってもできない、という生徒は出てきます。
いや、時間をかけてしっかりやれば必ずできるようになるのですが、少なくとも部活動という形態では難しいのです。
毎日の練習は2時間程度。週末でも半日。
そのなかでサーブに費やせる時間はそれほど多くはありません。
コート数も限られていますから、一部の生徒に特別レッスンをしているスペースもない。
さらに春から夏にかけては公式戦が目白押し。
4月に入部した1年生でも、夏のジュニア大会には出場しますからそれまでに仕上げることになる。
ただ、大会に間に合えば良い、というわけにはいきません。
ゲーム形式の練習や練習試合などでサーブが入らなければ話にならない。
したがって、選手の中には「とりあえず入るサーブ」で妥協せざるを得ない選手も出てくることになるのです。
完成するまで間に合わない、と言ったら良いでしょうか。
そこを、指導者や保護者の方がどう感じるか、によると思います。
僕自身は、もちろん自分の指導力のなさを申し訳ないと思いながらも、選手が「とりあえず入るサーブ」で満足することはやぶさかではありません。
きれいなフォームを目指しているとはいえ、入らなければ、テニスをやっていても面白くないからです。
ある特定の技術を習得するまでは次のステップには進めない、という指導方法もあるかもしれませんが、うちのチームではやりません。
これは今連載中の(かなり滞っておりますが)「練習メニュー」とも絡むのですが、少なくとも学年内では、技能の習熟度に関係なく、練習メニューは横一列でやっていますから。
少しうがった言い方をするならば、
「理想のフォームを目指して練習を始めるけれども、途中でリタイアしたり、時間切れでタイムアップになってしまう選手がでることは仕方が無い」
というスタンスと言えるかも知れません。
ソフトテニスの経験者などだと、厚く握ったグリップで、外側から内側に振り下ろす「リバースサーブ」の選手が非常に多い。
こうなると、一度フォームをバラバラにして、一から作り直すのはかなり大変。
本人も、今まで慣れ親しんだフォームを一旦捨てることそのものに抵抗があるうえ、新しいフォームを獲得する過程において、どうしても「上手くいかない」時期を長く経験するわけで、それが我慢できない気持ちも分かります。
部内でのランキング戦などでサーブが入らなければ話にならないわけですから。
もちろん、それがちゃんと我慢できる生徒は上手くなります。
たとえばうちのチームの1年生には3人のソフトテニス経験者がいるのですが、1人は理想のフォームで打て、1人は形としては理想のフォームに近づいているけれど力強さと確率が上がらない、最後の1人はソフトテニスでのフォームとの折衷案のようなフォームで少しずつの修正を模索中、という感じです。
幼いジュニアの選手であればなおさら、フォームの完成を急ぐ必要はないと思います。
体の各部位の筋力は、年齢によってつきやすさが異なります。
腹筋背筋は比較的早い段階からつけることができますが、三角筋や僧帽筋などは、中高生にならなければほとんどつきません。
筋力をつけるためには「筋肥大」を目的としたトレーニングと「筋瞬発力」を目的としたトレーニングとを効率よく行わないとなりません。
「余分な筋肉をつけると動きが遅くなる」
などとよく言いますが、これは多くのトレーニングが「筋肥大」には有効なもので、「筋瞬発力」を目的としたトレーニングを正しく行っている人がいないからです。
そのため、
「サーブに必要な筋肉は、サーブを打ちながらつければよい」
などということを、トレーニング理論の基礎さえ無知なコーチが言ったりしますから注意してください(笑)。
また、Aさんの質問の中に、
「スピンサーブを打つために、体軸を傾けられる選手とできない選手の違いは何か」
というものがありました。
体軸を傾けるために必要なのは、体幹の筋力とバランス感覚です。
上半身が傾き、さらにラケットを前方に振り出したとき、重心は確実に左前方に(右利きの場合)移動します。
それとバランスを取るために、右足を後方に蹴り上げる形になる。
これができれば、体軸は簡単に傾けることが可能です。
これも、段階的な練習をしているときに、両足をベタ踏みした打ち方から、前足一本で立って打つようにしなければ、身につけることができません。
うちのチームでは、トスアップから打ち終わるまで、片足一本で立ち続けて打つ練習を取り入れたりしています。
「ゴール」のために必要な技術を、順序よく習得していくことは非常に難しいのですし、どんな人でもプロのようなサーブが打てる、なんて非現実的なことをいうつもりはないのですが、それでもそれに近づくことは十分可能であると思いますので、みなさんも、いろいろと試してみましょう。