前回の記事で、Aさんへの回答は完了です。
 
 ただこれに関連して1つ。
 
 今回のように、ヒジを曲げることそのものが悪いのではなく、その説明の仕方が科学的に間違っている、ということはよくあることです。
 
 某自称テニスコーチのような、理論そのものが間違っていて、それとつじつまを合わせるためだけの全く根拠ない非科学的な説明とは根本的に違う(笑)。
 
 だからこそ、今回のネタ元(サイト)は明かしていないのです。
 
 体の動きそのものには何ら問題が無く、それをわかりやすく教えようとする段階での勘違い、でしかありませんから。
 
 Aさんに正しく伝わりさえすれば良く、そのサイトを糾弾するつもりは毛頭ありませんのでご了承ください(笑)。
 
 テニスの理論を論ずるときに気をつけなければならないことは、体の動かし方そのものが間違っているのか、それともそれを理解・説明する上での科学的な分析が間違っているのか、その見極めが必要なことです。
 
 今回の「スウィング中にヒジを止める」という考え方は、方法論としては決して間違いではありません。
 
 ただたんに「なぜスウィングが速くなったように感じるのか」という分析が、あまり科学的でなかった、ということです。
 
 個人的には、ラケットの軌道がアウトサイド・インになる気がしますし、テイクバックが大きく、フォロースルーが小さい、という状態になりかねないのでおすすめはしませんが(笑)。
 
 今回の理論は、最終的に僕の中では、ダブルベンドかストレートアームか、どちらが良いか、という議論と根元が一緒です。
 
 ただ、このサイトのコーチはラケットを振り出す段階で腕を伸ばし、伸張反射を活用することを説明しています。
 
 これは僕自身、「フォームの改造 その20」で、ストレートアームの一番の利点は伸張反射を利用できることだ、と言っていますから、ここらへんは理論があっているから、やっかいです(笑)。
 
「フォーム改造 その20」のなかでも、
 
 腕を伸ばすと、回内・内旋での可動域は狭くなります。
 
 狭くなる、ということは、少しのねじれで筋肉が伸ばされ、伸張反射が生じやすい、ということでもあるのです。
 
 とも説明させてもらっていますから。
 
 しかし、このコーチはテイクバックのときには確かに腕が伸びているのですが、実際に伸長反射が生じはじめるフォワードスウィングの瞬間にはすでにヒジが曲がり始めており、その分、外旋の可動域が広がってしまうため、かなり大きな外旋によって伸張反射を引き出していたりします。
 
 だから、要注意なんです(笑)。
 
 体の動きが間違っているわけではない。
 
 伸張反射という理論も、すごく重要な理論。
 
 しかし、今回の動きそのものを説明するには不十分、という感じなのです。
 
 これが、僕が「ストロークの原理」というシリーズをいっこうに始めない理由です(笑)。
 
 それだけストロークは難しいのです。
 
「フォームの改造 その21」でも、フォアハンドのフォームチェックとして、次のように書いています。
 

1.スタンス

・どんな場面でオープンスタンスになり、どんな場面でスクエアスタンスにするか
 

2.左手の使い方

・ラケットのスロートに添えて、どこまで引くか
・どんな高さで、どの方向に伸ばすか、またヒジの曲げはどうするか。
・ラケットの動きに合わせて、どのように引くか。
 

3.テイクバック

・どのタイミングで引き始めるか、どこまで引くか。
・ヒジ先行かラケット先行か
・ラケットダウンの大きさとタイミング
・ヒジ、手先の動き、ラケット全体の動きと面の向き
 

4.インパクト

・打点
・ストレートアームか、ダブルベンドか
・スウィング自体の大きさ
 

5.フォロースルー

・ラケットの軌道と面の向き
・振り終わった後のラケットの位置
 
 おおざっぱに書いて、これだけあるんです。
 
 しかも、どれが正しい、というのがほぼ無い。
 
「ダメなフォーム」はあります。
 
 が「正しいフォーム」はいっぱいあるんです。
 
 さらにこれに、グリップの握り方や打つべきボールの種類──フラット系かトップスピン系かスライス系かで変わってくるわけですから。
 
 みなさんも人に教えるときなどは充分注意しましょう。
 
「できないのに教える」
 
 というのがダメなのではありません。
 
「言ってることとやってること(やろうとしてること)が違う」
 
 というほうが問題なのです。
 
 教えられる側は「言葉」のほうを信じますからね。
 
 言葉と実際の動きの違いに気づいた、今回のAさんのような人のほうが少ないのです。
 
 僕もよくやる間違いですから。
 
 もちろん間違った実践を間違った理論で補完しようとする某自称テニスコーチのようなのは論外ですがね(笑)。
 
 それではここまで。
 
 Aさん、ネタを提供していただきまして、本当にありがとうございました。