さて、ゲームの開始とともに、注意集中をまた変更します。
 
 実は、本来であれば「狭くて内的」な集中から、すぐに「狭くて外的」な集中に持って行くのが理想です。
 
 1つのプランや修正点を確認した後、サーブまたはリターンに入った瞬間に、外的なボールや相手の動きに注意集中を向けるのです。
 
 が、これが非常に困難なのです。
 
「内的」なものから「外的」なものへの切り替えは、非常に難しいからです。
 
 ゲームの待機時の「内的で広い」集中から、コートに入ったときの「外的で広い」っていうときのように、明らかに周りの環境や自分の行動が変わってくれれば切り替えやすいのですが。
 
 たとえば、
 
「相手は動きが鈍いから、サーブのトスを、スライスが打ちやすい少し右寄りに上げよう」
 
 っていうプランを「狭くて内的」なときに選択するとしますよね?
 
 そこから、サーブのルーティーンに入っていくのですが、このときには「狭くて外的」な注意集中に切り替えなければならないのに、頭の中で、
 
「右寄りにトス、右寄りにトス、右寄りにトス……」
 
 と内的な思考を継続してしまっていることがよくあるのです。
 
 これではダメなわけですね。
 
 実際には、その狙ったところにトスを上げるための「ボールを離す場所・タイミング」という外的な情報にだけ注意点を向けなければならないですし、練習を重なれば「右寄りにトスを上げる」という思考によって、行動が自動化される(体が勝手に調節してくれる)のが理想なのですが、どうしても「目標を頭の中で反芻する」という「内的な思考」を続けてしまいがちになってしまいます。
 
 だから、初・中級者には難しい。
 
 ですので、この「狭くて内的」な注意集中と「狭くて外的」な注意集中との間に、「広くて外的」という注意集中を1つ「クッション」として挟むのです。
 
「狭くて内的」なものとは真逆な「広くて外的」な注意集中を挟むことで、内的な思考から一気に離れられます。
 
 そして、その「広くて外的」なものから「狭くて外的」なものへの切り替えに大切なのが「視線のコントロール」なのです。
 
 緊張しているプレイヤーは文字通り「目が泳いでいる」ことが多いからです。
 
 特に「狭く外的」な注意集中をするべきときに如実に表れます。
 
「ボールに集中しよう」
 
 と「思っている」だけで、実際には視線がボールに固定されていない場合が多い。
 
 注意集中が「狭く」はなっているのですが、内的なものにとらわれていたり、ぼやーっとしか見ていなかったりするのです。
 
 ボールの回転を見るぐらいのつもりでないといけないのに、そんな余裕がないプレイヤーはたくさんいます。
 
 そこで行うのが「ファー・ポイント・ルック(Far Point Look)」「ニアー・ポイント・ルック(Near Point LooK)」と呼ばれるものです。
 
 文字通り、遠くや近くの一転を眺めることで、目線を安定させる方法です。
 
 ファー・ポイント・ルックは、野球の投手などが投球前にやることが多いのですが、バックネットの旗先を見つめたり、電光掲示板の一点を見つめたりすることで、自分の視線を安定させるのです。
 
 テニスコートでも、会場外のビルの一点を見つめたりすることでできます。
 
 僕は、これを徹底するために、ラケットでその一点を指しながら行います。
 
 ニアー・ポイント・ルックは、ストリングスのゆがみを整えたりするときにおこないます。
 
 ただ、ニアー・ポイント・ルックの場合、内的な思考を引き起こしやすいので注意してください。
 
「外的で広い」注意集中から、スーッと視界を狭めるイメージで、一点に集中していくのがコツです。
 
 その狭くなった注意集中を、そのまま相手、またはボールに向け、その「1本」にだけ集中するわけです。
 
【次回へ続く】