そしてゲーム開始直前──ベースラインで構える直前に「狭くて内的」なものにしたときの注意点。
 
 待機時の「広くて内的」な注意集中で考えたゲームプランと、ウォームアップ時の「広くて外的」な注意集中で獲得してきた情報をもとに、最優先事項のみに特化した注意集中を行うのです。
 
 技術的なものを1つ、戦術・戦略的なものを1つ、ぐらいで十分です。
 
 これは「その6」にも書きましたが、僕は技術的なものとして、首の付け根とヒジを意識したスウィングを確認します。
 
 僕の場合、手首やラケットではなく、ヒジを大きく前に振り出すイメージでスウィングすると、きれいな軌道を描くことができ、また首の付け根を固定して頭を残す感じで、みぞおちから下を、ヒザの動きを先行させることで回転させると、良い回転ができるからです。
 
 が、その一連の流れを打つたびに考えることは不可能ですし、直前にそんな多数のチェックポイントを考えてしまうと、パニックになってしまう(笑)。
 
 そのため、僕の場合、チェックポイントは「首の付け根を固定ながらヒジをスムーズに前に出せるか」だけに絞るのです。
 
 これをゲーム前に意識するだけで、かなり違います。
 
 ゲームプランも、まずは1つだけ。
 
 それが上手くいかなければ、次のに変更すればいいのですから(笑)。
 
 ただ、この「狭くて内的」な注意集中が難しい
 
 どうしても様々なことが頭に浮かんでしまうからです。
 
 つまり「広くて内的」なものになりがちなわけです。
 
 それは「勝ちたい」とか「うまくやりたい」という、ゲームをする上ではジャマにもなれば必要にもなるものが、僕たちの中にはあるからです。
 
 それらが「意欲」であるうちは良いのですが、自分の「意識」を外れて、単なる「欲」になってしまった瞬間、制御が効かなくなってしまいます
 
 ここで無理に「欲」を抑えようとすればするほど、心理的には無理がかかってきます。
 
 抑えようともうことそのものが「内的」な心理作用であるからです。
 
「勝負にこだわらず、自分らしいプレイができるようにしよう」
 
 という思考方法は理想的ではあります。
 
 理想的ではありますが「自分らしいプレイ」というものが確立し、また「自分らしいプレイ」ができさえすれば勝てるという自信があってこそのもので、実は上級者ならではの思考方法なのです。
 
「勝てるかどうか分からない」
 
「負けるかも知れない」
 
 という不安を抱えた初・中級者が「自分らしいプレイができれば満足」などという「きれい事」を言ってもしょうが無い。
 
 だって勝ちたいでしょ(笑)
 
 初・中級者がそこまで割り切れてしまうと、それは勝利への「意欲」さえもなくすことになる場合があるのです。
 
 試合の途中から、勝ちに行くことを本気であきらめてしまっているプレイヤー、試合会場にいませんか?
 
 高校生などは、それがよくあります。
 
「勝ちたい」
 
 と口にしながら負けてしまうと、かっこ悪いからです。
 
「勝つことよりもまず、良いプレイができれば良い」
 
 と言っておけば、もしも負けたとしても、
 
「自分らしいプレイができたから良かった」
 
 という、自分なりの予防線になるからです。
 
 上級者だからこそ口にできるような、しかし初・中級者が口にした途端にただの「言い訳」でしかない台詞を言ってしまえる自分が、いかにも「おとなな対応」をしている風に思えるわけですね。
 
 これは「メンタルが強い人が使う台詞」であって、「口にすればメンタルが強くなるわけではない」ということを肝に銘じなければなりません。
 
 まずは「勝ちたい」という「欲」を自分の中で認めてしまいましょう
 
「勝ちたいなぁ、でも緊張しちゃうなぁ。負けたらやだなぁ」
 
 って口に出しても全然良い。
 
 そこから「欲」「意欲」にまで転化させるのが「狭くて内的」な注意集中なのです。
 
「勝つために、○○だけに気をつけよう」
 
 と思えば良いのです。
 
 そうすれば「欲」と上手くつきあいながら、注意集中を的確に行えるようになります。
 
 そして、ひたむきにその1つのことを実践しようとチャレンジすることが「意欲」につながっていくのです。
 
【次回へ続く】