前回お話ししたような「まず始めは」というようなプランだけでなく、ゲーム全体を通した戦術、戦略を考えるのもこのときです。
「相手はフォアのクロスが得意だから、わざと空けておいて、打つ瞬間に狭めるようにしよう」
とか、
「相手はバックが苦手だから、打てるショットは全部バック側に集めよう」
というものになります。
高校での大会の前などには学校ごとにコートが割り当てられ、わずかですが練習時間が与えられます。
もちろん、自分のチームの選手の調子をみるのも大切なのですが、ドローがすでに分かっている個人戦のときなどは、対戦相手の様子を見るのも、僕の仕事です。
ある大会で、その練習中、うちのチームのAさんの対戦相手のBさんが横のコートで練習をしていたので、観察をしていました。
そうしたら、Bさんはバックハンドが弱い。
ぱっと見は分からないのですが、バックを打つときの慎重さやフォアハンドへの回り込みの割合から判断しました。
僕はすぐにAさんにそのことを伝え、すぐに試合に臨むことになりました。
そこで問題が。
Aさんが、ゲームプランを徹底できないのです(笑)。
技術的な問題ではありません。
気持ち、というか。
僕はAさんに、
「Bさんは、バックが苦手なはずだから、全部バック方向に打て。多少回り込まれてもいいし、サイドアウトになるほどじゃなくていい。バックを打たせる回数を増やす程度で十分」
と伝えました。
Aさんも、それをゲームプランとしてやっているんです。
が、バックに集めるとBさんはフォアで打つために大きく回り込むことになる。
そうすると、Bさんのフォア側、Aさんから見ると左側に大きなオープンスペースができるわけです。
と、どうしてもそこに打ちたくなる。
ゲームプランを徹底できないことになるのです。
Aさんにとってすれば、大きく空いたオープンスペースに打ち込む絶好のチャンスを逃していないつもりなのでしょうが、もともとBさんはバックに苦手意識があって回り込んでいるのですから、フォア側が大きく空くことは想定内。
ちゃんとカバーできる程度のスペースしか空けていないのです。
逆にBさんにとっては「一息つける」時間になってしまいますし、フォアには自信があるBさんは、少しでも短くなったときはすぐに打ち込んでくる。
しかも、バックが苦手な選手がフォアハンドでウィナーを決めるときは、万が一にもバック側に返されたくないものだから、無意識に順クロス方向に打つ確率が増えます。
Aさんも、それを読んでカバーすれば良いのに、それもできない。
両方に対応できるように中央で構えて、結局どちらに来ても取れない、という最悪な状況をかってに作り出していたのです。
試合としては、なんとか勝つことができましたが、試合後、Aさんをしかることになりました(笑)。
ゲームプランを徹底することと固執すること、余計な「欲」を出すことと臨機応変に対応すること。
これらは紙一重でしかないため、なかなかに難しい。
特に、アマチュアプレイヤーがその使い分けをするとき「上手くいったかどうか」は結果論でしかない場合が多いのも確かです。
だからこそ、ゲームプランは「複数」準備しておくのです。
上手くいかないプランを「やめる」のではなく、より確率の高いプランを「選びなおす」という形にすることで、パニックに陥ることを防げます。
ゲームプランの選択は「広くて内的」な注意集中を行うのは、試合前やポイント間、エンドチェンジ時。
ポイント間やエンドチェンジ時は時間が短いので、複数のゲームプランを構築する余裕があるのは試合前しかありません。
だからこそ、試合前の「広くて内的」な時間はすごく重要なのです。
ただただ緊張していると、「緊張している自分」をどうにかしようということばかり気にする「狭く内的」な注意集中に陥ってしまいがちですが、緊張している自分はとりあえず受け入れてください。
緊張している自分でも実行可能なプランを考える、というふうにするのです。
「実力さえ出せれば、こんなこともあんなこともできるはず」
などというご都合主義のゲームプランではなく、徹底的に現実主義なゲームプランに徹してください。
体が温まって調子が出せるようになったら、いつでも「変更」できるのですから。
【次回へ続く】