注意集中のタイプの切り替えについてお話ししてきましたので、今回からは、それぞれの切り替え時にどんなことをすると上手く切り替えが行くのか、またどんな切り替えがよく、どんな切り替えがダメなのか、を見ていきたいと思います。
まずは、試合前に行う「広くて内的」な注意集中から。
女子棒高跳びの世界記録保持者であるエレーナ・イシンバエワは、試技前の待機時、顔を帽子やタオルで覆って寝転がって集中を高めているのが有名ですが、あれこそが「広くて内的」な集中をしているときになります。
さすがにアマチュアのテニスプレイヤーが、一人試合会場の脇で顔を覆って寝転がっている光景は異様ですし、女子高生がそんなことをしていてはみっともないのでうちの選手にはさせませんが(笑)、注意集中の切り替えの中でも、この「広くて内的」な注意集中の時間の継続時間は、非常に長くなります。
女子マラソンの高橋尚子選手が、シドニーオリンピックの競技前に、hitomiの「LOVE2000」をノリノリで聞いていたのを覚えている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
一番簡単なのは、高橋尚子選手のように、音楽を聴くことです。
ただ、このとき大切なのは、高橋選手のように、音楽の世界に没頭することです。
余計なことは考えない。
逆に、これまでの練習内容やゲームプランを考えるときは、音楽のことさえも忘れなければなりません。
音楽が流れてそちらに意識が少しでも行ってしまわないように、思い入れの強すぎる曲(彼氏と始めて聞いた、とか、誰かにプレゼントされた、とか、すごく好きなアーティストの曲、とか)や、発売されたばかりで歌詞などに意識が行ってしまいがちな曲は避けてください。
聞き慣れて、歌詞を文字通り「聞き流す」ことのできるような曲にしましょう。
僕などは、ウォークマンをもっていて「ノイズキャンセル」機能が付いたイヤホンを使っているため、音楽を気にならない程度の音量で流して「雑音」が入らないような状態にします。
イシンバエワのように、顔を覆って目を閉じて、自分の中に埋没するような集中でもかまいませんが、目をつぶると、かえって音に対して敏感になり、周りの音が気になったりする人もいるので、自分なりのやりかたでかまわないと思います。
ジョギングなどの単調作業は、注意集中にジャマになりませんから、ウォームアップも兼ねられる上、独りになりやすいので一石二鳥かもしれませんね。
僕はジョギングが苦手なので無理ですが(笑)。
普段から練習ノートをつけている人は、それを見返すのもよいでしょう。
それを読みながら、自分のこれまでの練習を振り返り「今日この日までに自分ができるようになったこと」を頭の中で整理します。
サーブはどれぐらいの強さで打つとダブルフォルトしないのか。
フォアは、どのエリアからならば攻撃的なショットを打つことが可能なのか。
対戦相手の弱点はどこになりそうか。また、どんな攻められかたをするのか。
ここでは、できるだけ「ポジティブ」な要素を取り上げます。
「これはできない」「これはやってはいけない」というのでは、テンションが上がるはずもありませんからね(笑)。
ゲームプランについては、すごく書き方が難しいのですが「大まかなもので良いが、できるだけ具体的に」という言い方になります。
例えば、
「最初から積極的にいく」
というのは、全く具体性がないのです。
こういう具体性のないゲームプランは、自分で「合格点」があげにくくなるため、一度失敗すると修正がきかなくなってしまう。
ゲームプラン自体が悪いのか、それともゲームプランを実践できないことが悪いのか、判断できなくなってしまうのです。
できれば、
「最初の1本分はどんなトスでもいいから、サーブをフルスウィングで打つ」
とか、
「ゲームの一番最初に、両足がエンドラインの内側(アプローチエリア)に入ったら、体勢が整っていなくても、相手のバック側に強打する」
などと具体的に決めるのです。
「大まかなもので良い」というのは、結果そのものを求めないことや、実施内容そのものは簡単なものであること、ということです。
例えば相手のバック側に打つ、と決めた場合、「相手にバックで打たせる」こととの間にはかなりの隔たりがあります。
「相手にバックで打たせる」というプランを立ててしまうと、相手がフォアに回り込んで打ったときに「失敗」となってしまうため、これはダメなのです。
相手次第で「成功」「失敗」が大きく左右されるようなゲームプランはできるだけ立てない、というのが、初・中級者の基本です。
相手の「バック側」に打とうとするだけで良い、とするのです。
大まかさと具体性のバランスをしっかりと意識したゲームプランを考えましょう。
【次回へ続く】