前回、注意集中には「広くて外的」「広くて内的」「狭くて外的」「狭くて内的」の4つのタイプがあるんだ、というお話をしました。
 
 この4つのタイプは、すべて必要なのですが、同時にすべてをやるわけではありませんし、不可能です。
 
 ゲームの際、この4つを次々と切り替え、的確な注意集中を行う、というのが本当の意味での「集中できている」状態なのです。
 
 それでは、試合の流れとともに、注意集中の切り替え、そしてその際に必要な考え方を見ていくことにしましょう。
 

1.ゲーム待機時

 試合前、試合を待っている間に行う注意集中は「広くて内的」な注意集中です。
 
 これまでやってきた練習を思い出しながら「自分にできること」をピックアップしていきます。
 
 相手のことを知っているのであれば、相手のプレイを想起し、どのような試合展開になりそうかを自分なりに予想したりします。
 
 いわゆるイメージトレーニングですね。
 
 それらをもとに、基本的なゲームプランをこの時点で立てることになります。
 
 このときの注意集中は「内的」なものであるので、できるだけ「雑音」を排除したものであるのが良いと思います。
 
 音楽を聴いたり、ジョギングなどの単調運動を繰り返すと、内的な集中に持っていきやすい。
 
 大事なことは、この時点では「広い」注意集中であることです。
 
 細かいことにこだわらず、自分のプレイの良いところをイメージングするようにしましょう。
 

2.試合直前、ウォームアップのとき

 市民大会や高校生の大会では、プロのような控え室が準備されているわけではありませんので、前の試合の進行状況を気にしながら、いつでもコートに入られるよう、準備をしなければなりません。
 
 ですので、1.の「広くて内的」な注意集中を、コートに入る直前までやっている贅沢は許されません。
 
 試合の直前待機のとき、またコートに入ってベンチで準備をしているとき、そして大きい大会などでウォームアップの時間が与えられているときなどに「広くて外的」な注意集中に切り替えましょう
 
 まず、試合会場の環境を確認しましょう。
 
 風の強さや向き、太陽の位置、オムニコートなら砂の量などが大切な情報となります。
 
 ウォームアップができたり、対戦相手の試合を見るタイミングがあるのであれば、対戦相手の動きやスウィングの特徴を見ておくのも良いでしょう。
 
 またダブルスの場合には、対戦相手だけでなく、味方ペアの調子にも気を配る必要があります。
 
 サーブは入っているか、緊張していないか、また逆に相手を舐めていないか。
 
 外的な注意集中で、必要な情報を一気に吸収する必要があるのです。
 
 ただし、ここで注意点が。
 
 いわゆる「雑音」がこのときに入ってきてしまいます
 
 相手選手の応援、隣のコートの歓声などが気になり始めると、本来吸収しなければならない情報が入ってこなくなるので注意してください。
 
 また、自分を応援してくれるチームメイトや家族の顔が目に入ると、良いところを見せようとしてしまうこともありますしね(笑)。
 
 さらに、このときに「内的」な注意集中から切り替えられない場合が多くあります。
 
 試合前に終わらせておくべき「この試合は、どうしよう」とか「緊張を解きたい」とか「なんとしてでも勝たなきゃ」などという思考にとらわれて、そのままコートに入ってきてしまい、自分の中に閉じこもってしまう感じです。
 
 この状態になると、実は外からの「雑音」も耳に入らなくなってしまうので、これを「自分は集中できている」と勘違いするプレイヤーがいます
 
 それは全く違います。
 
 的確な注意集中ができていない時点で、ダメなのですから、いくら1つのことに意識を向けられたとしても、害にしかなりません。
 
 特に自分が緊張していることを認識しているときにこの状況に陥りやすくなります。
 
 緊張とは、すなわち心の状態ですから、それにとらわれている時点で、注意集中が内側に向いてしまっているからです。
 
 緊張をしていても構わないのです。
 
 それが実力なんだから。
 
「緊張すると、実力が出せない」
 
 と思っているのが馬鹿げているのです(笑)。
 
 そんな場面で緊張して練習の成果を出せないことそのものが、実力なのです。
 
「自分の納得できるプレイをすればOKとしよう」
 
 と口にする選手に限って緊張で体が動かなくなる場合があります。
 
 これは「納得できるプレイをしよう」という言葉が、その人にとってのキュー・ワードになっておらず、かえって納得のいかないプレイを繰り返すことで、
 
「自分が決めた最低ラインさえもクリアできていない」
 
 と、緊張が増してしまう場合があるのです。
 
 そういう言葉は、練習の時から使っていないと、使い物にならない。
 
 付け焼き刃で、自分を奮い立たせられるような名言など、そうそうないのですから。
 
 まずは「内的」→「外的」の切り替えをスムーズに行えるよう、普段の練習から取り組むようにしてください。
 
【次回へ続く】