さて、前回の続き。
 
 もう一度、図66をごらんください。
 
 
 肩関節の柔らかい人なら、グリップ(手首)の位置を全く変えることなくできるかもしれないですが、上腕の外旋方向の可動域と腰の回転の速度を考えれると、グリップ位置を全く変えないことは、まず無理でしょう
 
 したがって、最初の位置から、グリップ(手首)の位置を落とすのは論外です。
 
 最初の位置からグリップが落ちている人のほとんどは、外旋によって落としているのではなく、ヒジの曲げ、によって落としているに過ぎません
 
 ヒジを曲げると、回外運動の妨げになりますし、ここからヒジを伸展させるときに、随意運動に頼らざるを得なくなる。
 
 以前、割り箸を使った動画を載せたことがありました。
 
 肘を伸ばすには伸張反射によって、必ず上腕三頭筋や肘筋を収縮させなければいけないんですよ、という説明のためにご紹介した動画です。
 

 

 

 
 逆に言えば、この動画では、肘筋や上腕三頭筋が適度に脱力しながら、強い回転運動がかかっているときには、ヒジは90°近くに曲がっているはずで、ヒジを折りたたむように鋭角に曲がることはない、ということも言えるわけですね。
 
 ヒジを折りたたむように──ヒジの内側が完全に閉まるぐらいに肘が曲がっているのは、完全に随意運動でヒジを曲げている証拠ですから、上腕のヒジ近くにタオルなどを厚く巻き、ヒジが曲げすぎてないか分かるようにしてみてください。
 
 そして、これにも落とし穴が。
 
「ああ、俺は、意識的に上腕を外旋してないから大丈夫
 
 って思ってるアナタ!!!アナタのことです!!(笑)
 
「意識して上腕の外旋を行っていない」のと、「そもそも上腕の外旋ができていない」のとでは、全く違いますから、注意しましょう。
 
 かならず動画などで3方向以上から撮影し、肘の角度や前腕の倒し込みを確認してみてください。
 
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 ここまでご紹介したテイクバック~ラケットダウンの動きを、生徒などに教えるのが最も難しいところです。
 
 生徒自身にとっては、全く見えない部分での腕の動きだからです。
 
 しかも「先入観」や「イメージ」が先行してしまっていて、正しい筋肉の使い方さえ分かってくれない。
 
「フォワードスウィングで回内するために、あらかじめ回外しておくんだ」
 
 っていうこともなかなか理解しにくい。
 
「フォワードスウィングは回内だけじゃなく内旋もしてるんだ」
 
 っていうのを知らない人も多いから、その準備でしっかり外旋をしておくことにも意識がいかない。
 
「円運動のようなイメージ」で腕を動かすことと、実際に外から見て本当に選手の腕が円運動しているように矯正するのとでは、雲泥の違いがあります。 
 
 また「随意運動」についても勘違いしている人がいます。
 
 随意運動とは、その名の通り「意に随(したが)って」筋肉を動かすことではありますが、筋肉を「無意識に動かす」ことは十分にあるんです。
 
 たとえば、笑顔を作るときの表情筋
 
 あんなもの、いちいち考えながら動かしてないでしょ?(笑)。
 
 随意運動とは、大脳を中枢として行う運動のことですので、決して「考えながら動かす」ことだけではありません。
 
 もともと備わっているプログラミングや訓練や慣れによって「無意識のうちに動く」ことも含めるんです。
 
 これがなかなか分かってもらえない。
 
「意識せずに筋肉を動かしている」のと、いかにも自分が「脱力している」のとの区別がつかない人が結構多いんです。
 
 たとえば、テニスの指導者講習会でのウォームアップやクールダウンのときに、立ったままの状態で、
 
「はい、全身の力を抜いてダラーってしてくださ~い」
 
 って言われたりすることがあります。
 
 僕なんかは、
 
(いやいや、全身の力抜いたら、立ってられんやろ!)
 
 と思いつつ、小心者なので口には出さないんですが(笑)、でもそういう「あり得ないんだ」ってことが分からない人もいるわけです。
 
 立つことそのものに絶対的に筋力は使っているはずなのに、自分ではちゃんと力を抜いているつもりになれてしまう。
 
 その「イメージ(体感と言ってもいい)」と「実際」の違いを、承知の上で、
 
「(実際には無理だけど、可能な限り)力を抜く」
 
 って言ってくれる人と、本気で全身の力を抜いていると思っている人とでは、話の通じ方が違ってしまいますからね。
 
 伸張反射を使い、本当の意味で随意運動でない「反射」で収縮をさせるには、一旦筋肉を「伸ばす」必要があります。
 
 この「荷重」を感じないことこそが「脱力している」と思っている人は、なかなか多い
 
 その「荷重」がかからないこそ、随意運動をしている証拠なのに。
 
 伸張反射ができるかどうかは、ボールを投げると分かります。
 
 子供の頃からボール投げなどをしていない人は、伸張反射を利用した体の使い方を習得していない人が多いからです。
 
 逆にうちのチームの女子生徒でも、サーブが上手い選手は、キャッチボールの経験がないのに、投球フォームがキレイです。
 
「ボール投げの腕の動作ではサーブは打てない」
 
 って言っている人は、ボールの投げ方そのものが間違っているだけですから(笑)、注意してくださいね。
 
 そらぁ、アンタの投球フォームだから無理なだけだろ、みたいな(笑)。
 
 ぜひ、ジュニア選手の保護者の方は、子供の頃からいろいろなスポーツを経験させてあげてください。
 
 走って、飛んで、人や物との距離感を必要とするようなスポーツを。
 
 サッカーでも、野球でも、バスケットボールでも。
 
 バドミントンと卓球は中途半端に似ているのでやめた方がいいですが(笑)。
 
 弱い「バネ」でも、その有効な使い方さえ覚えれば、よいテニスプレイヤーになると思います。
 
【次回へ続く】