それでは「サムアップをしない」メリットはどうでしょう。
 
 僕が考えるメリットは「ラケットワーク」です。
 
 サムアップ推奨派の方は、ラケットのグリップを親指を使ってラケットをより強く固定できるイメージがあるかもしれませんが、これも間違いです。
 
 いや、昔のウッドラケットで、スライス~フラット主体の大昔のテニスなら多少はあったかもしれませんが、今はありえない。
 
 トップスピンが主流だからです。
 
 トップスピンを打つには、ラケットを何らかの形で下から斜め上方に振り上げないといけない。
 
 図4を見てもらうと分かりますが、普通に握ったときのほうが、グリップが親指に「ひっかかり」、振り上げが容易に行えます
 
イメージ 1
 
 このとき、グリップは親指の付け根に「乗っている」感じになっているので、強い力は必要がない。
 
 一方、サムアップの場合は、ラケットを上方向に振り上げるには、グリップと親指表面との摩擦力+人差し指によって、ラケットを引き上げることになります。
 
 まず、親指はグリップからズレないように、強く「押さえつける」力が必要です。
 
 また人差し指によるラケットの「引き上げ」は、付け根に乗せているだけの親指とは違い、握力によって握り込まなければいけません。
 
「ラケットは、中指、薬指、小指の3本と掌だけで握って、あとは脱力する」という、効率の良いグリップの握りとは真逆になってしまいます。
 
 さらに、サムアップ自体、人間にとっては不自然な動きなんです。
 
 ここからは、僕の専門の生物「進化」のお話。
 
 霊長類の特徴の一つとしてあげられるのは「拇指対向性」というもの。
 
 人差し指~小指の4指と親指とが逆方向を向いて、モノを握ることです。
 
 これが、人を含めた霊長類の手の特徴。
 
 ものをつかんでいるのに親指を立てるのは、余分な筋肉を使った、不自然な動きなんです。
 
 せっかく進化で獲得したのに(笑)
 
 下の図を見てください(図5)
 
イメージ 2
 
 ラケットを握りながら腕を下ろし、手首の「曲げ」だけでラケットトップを力まずに上に向けた状態ですが、分かりますか?
 
 サムアップをしたときは、ラケットヘッドが上げにくくなっていることを。
 
 これは、手首の横方向の曲げだけですが、基本的にはどの方向の曲げに対しても同じ結果になります。
 
 やっていただければ一目瞭然なので、お試しください。
 
 解剖学上、サムアップして手首を図の方向に曲げると、肘のあたりの筋肉に緊張が生まれるはずですから。
 
 親指をグリップに沿って上げると余計な筋肉を緊張させなければいけないために、前腕の尺骨・橈骨のひねりや掌屈・背屈の「自由度」が減ってします。
 
 これが可動域の狭さを生み、テニスヒジなどの原因ともなるんです。
 
【次回へ続く】