そもそも、ラケットにあたる「直前」、実は手がラケットを進行方向に押す力は、限りなく小さくなっています。
 
 これも物理の基本、慣性の法則です。
 
 電車に乗っている人は、スタート時には加速によってよろめくことはあっても、速度が一定になれば乗客は立っていられる。
 
 ラケットが、ボールに当たっている間も「スウィングはずっと加速し続けている」という間違った感覚が、ボールを「押している」という感覚につながってしまいます。
 
 実際には、ボールを打つ瞬間、ラケットはすでに「トップスピード」に、少なくともそれに近くになっているはず。
 
 というか、トップスピードになっていなければ、それはダメなスウィングですよね。
 
 ラケットを握っているのは、空気抵抗による減速分を押す力と、遠心力によってラケットが飛んでいかないようにしているだけ。
 
 ラケットを加速させているのはスウィングの「過程」であって、打点付近では、ラケットと手の速度がほぼ同速に近くなり、ほとんど「押していない」瞬間のはず。
 
 だって「最高速」のはずなんだから(笑)。
 
「押している」という感覚は、グリップを握り込んでいるから生じる「錯覚」に過ぎません。
 
 特に、サムアップの場合は、親指でグリップをグッと押さえつけていますから、その「錯覚」が生じやすい。
 
 ボールが当たる直前は、実際にはラケットを押してはいません。
 
 ボールとラケットが衝突し、ラケットがボールによって押し戻されるので、指に新たに「押す感覚」が加わるんです。
 
 しかしそのときは、ボールはすでにラケットを離れ、前方に飛んだ後となります。
 
 親指が押しているのは、実際にはすでに「フォロースルー」状態になっているラケットでしかないんです。
 
 よく、サムアップ推奨派の人は、
 
「テコの原理を使って、親指で押すことによって、ラケットのトップを加速させる」
 
 と言いますが、これも間違い。
 
 もしもボールが当たった瞬間に「押し続けて」いるのであれば、それは結局、ボールが当たる瞬間に十分な加速ができていなかっただけという証拠です。
 
 逆に十分な加速ができているのであれば、結局ボールが当たった瞬間は「押していない」はず、という矛盾が生じます。
 
 さらに、その「ラケットトップを走らせる」という動きは、サムアップの専売特許ではない。
 
 実際には「親指で押している」のではなく、手首を曲げ伸ばししているだけなので、サムアップをしなくても十分可能な動きなんです。
 
 さらに、その加速させることも、てこの原理を使わない方がしやすい、ということは前回述べたとおりです。
 
 テコの原理で考えれば、もちろん弱い力で「走らせる」ことが可能なのかもしれませんが、前回に言ったとおり力点に加わる力が弱くてすむことがラケットトップの運動量増加には全くつながらない。
 
 しかも、この動き自体「手首をこねている」と言われて、敬遠される動きでしかありません。
 
 ラケットトップを「走らせた」上で、タイミング良くボールに当てるのは難しく、たいていは振り遅れの原因になります。
 
 また、手首を不自然に伸ばした状態で当てることになり、前腕の長橈側手根伸筋という部分を緊張させたまま衝撃を受けることになり、テニスヒジの原因ともなります。
 
 つまり、サムアップには、サムアップ推奨派の方たちが思っているほどの「メリット」は、全くないんです。
 
【次回へ続く】