まず、この「サムアップ」を行う利点として考えられているのが、
 
「ボールがラケットに当たった際に、テコの原理でラケットを『グッ』っと親指で押し込むことで、ラケットヘッドが走ってボールが飛び、ボールに押し返されない」
 
 という理論。
 
 これって、どうなんでしょうか?
 
 そもそも、サムアップは、ウッド(木製)ラケットが主流であった時代からの技術で、ガットを含めると400g前後になるラケットの動きをなんとか制御しようとした過程で生まれた技術でした。
 
 ラケットがボールと衝突する箇所を「作用点」、掌や指の各部分を「力点」「支点」とすると、下の図のようになります(図2)
 
イメージ 1
 
 各点にかかる、力の大きさ「だけ」について考えてみましょう。
 
 小中学校で習った、テコの原理、思い出してくださいね。
 
 テコは「支点からの距離」「加重の大きさ」の積(かけ算したもの)が、左右で均等にならなければいけません。
 
 たしかに、支点から力点が遠くなるサムアップをしたほうが「楽に持てる」ように思えますよね?
 
 でも、ラケットなどの、回転運動をさせているものには、慣性モーメントが生じ、これがまさにエネルギーに比例する。
 
 理科の教科書に書いてあるような、大きな石を棒で持ち上げたり、天秤で重いモノを支えたりするのとは、訳が違う。
 
 もしも、テコの原理で、ラケットヘッドを走らせているのだとしたら(実は、実際にはそんなことさえないんですが)、「ラケットそのものを楽に動かせる」という利点がある反面、それによって生じる慣性モーメントは小さくなるんです。
 
 言葉だけでは難しいですが、これは誰もが体感している自然現象です。
 
 その好例がトンカチ(図3)。
 
イメージ 2
 
 みなさんなら、どちらの持ち方でクギを打ちます?
 
 ぜっっっっったい、右側の (イ)とか (エ)でしょ?(笑)
 
 左側の場合、同じだけのエネルギーを出すには、その分、高速で力点を動かさないといけない
 
 テコの原理では、加える「力」は小さくてすみますが、決して「仕事量」そのものが少なくすむわけではない
 
 中学校でやったはずなんです。
 
「同じ『仕事量』の場合、力が少なくてすむときは距離が長くなる」
 
 という大原則。
 
 支点と力点の距離が遠ければ、必要な「力」は小さくなりますが、その分、速くそして大きく動かさなければいけないんです。
 
 中学校で習う程度の物理の基礎中の基礎のはずなんですが、サムアップで「テコの原理」を持ち出す人は、そこらへんをたぶん完全に忘れている(笑)
 
「てこの原理」=「なんでも簡単に動かせる」っていう間違った理科教育の弊害がここにも出ているっていう。。。
 
「グッ」と押せていることが、「力を加えている」という錯覚を起こしていることに全く気づいていないということです。
 
 ね?子供の頃の授業をちゃんと聞いてないと、大人になって恥をかくでしょ?(笑)。
 
 サムアップをしていないと、ラケットを「グッ」と押せていないように思えますが、それは拇指球には感覚神経が少なく、加重が「感じにくい」だけ。
 
 サムアップした親指はただでさえ筋肉を収縮させて立てている上、そこからさらに後ろに押し込まれる感覚が生じるので、いかにも「押してる!」という感覚になってしまっているだけなんです。
 
 ただ単に、ボールとの衝撃で速度が遅くなったラケットを、ボールはすでに飛んでいった後で、加速しなおしているだけなのに。
 
 サムアップなんかしなくても、トンカチのように持ち手の端を握っていれば、それ以上のエネルギーを腕の振りによって十分に作り出せているんです。
 
【次回へ続く】