そもそもテニス肘における筋肉の損傷は、なぜ起きるのでしょうか。
 
 凍っているお肉だとわかりにくいですが、牛肉や豚肉も、本来はかなり柔らかい
 
 人間の筋肉も、同じように柔らかく、けっこう「伸びる」。
 
 一定以上に引っ張られると、伸張反射も起こり、反動で収縮しますから、「伸ばしすぎて」筋肉が痛むことは少ない
 
 ただ、
 
「収縮を持続した状態で、筋肉を伸ばす」
 
 ということをすると、筋繊維などの損傷が起こり、炎症を引き起こします。
 
 これが「筋肉痛」となるわけですが、その炎症が一点で継続的に起こることで、慢性的な痛みと炎症が起こってしまった状態が「テニス肘」です。
 
 ポイントは、その「収縮した状態で筋肉を伸ばす」ということ。
 
 筋肉は、関節を伸ばすにしろ、曲げるにしろ、筋肉を「収縮」させるわけですが、収縮させるだけで筋肉が損傷することは少ない、と言われています。
 
 たとえば「重い荷物を、肘を曲げて持ち上げる」というのは「上腕二頭筋」を収縮させる、普通の運動。
 
 ですが、この重い荷物をゆっくりと肘を伸ばしながら下ろすときこそ、まさに「収縮した状態で筋肉を引き延ばす」という状態で、筋肉を痛める原因となります。
 
 階段を上るときは大丈夫なのに、階段を下りるときの方が疲れたり筋肉痛になりやすいのは、このためです。
 
 余談ですが、雨になったりすると校内の廊下や階段を利用したランニングをさせますが、僕は階段を下りるときはダラダラ降りさせ、故障が起こりにくいように気をつけています。
 
 さて、話は戻りまして。。。
 
 それでは、テニスにおける腕の筋肉はどうでしょうか。
 
 まずはフォアハンド。
 
 実は、フォアハンドによる「上腕骨内側上顆炎」は、発症の頻度でいえば最近では比較的低くなっています。
 
 なんせ、最近では「テニス肘」ではなく「ゴルフ肘」として説明していることが多い。
 
 これは、現代テニスのプレースタイルの変化によります。
 
 かつては、このフォアハンドの「テニス肘」も非常に多くありました。
 
 グリップを「薄く」握ることが主流であったことが原因です。
 
 薄いグリップでは、ラケット面を前方に向けた際、前腕とラケットのそれぞれの軸の角度は、前方から見ると「Vの字型」になります。
 
 さらに、現代のように「厚い」グリップの場合は、打点が体軸よりも前方になることがほとんどですが、「薄い」グリップの場合は、ほぼ体軸付近。
 
 体の真横あたりで打つことになる。
 
 ラケットトップの遠心力をできるだけ有効に使うためにラケットをできるだけ横に倒すスウィングにしようとすると、自然とヒジが伸びた状態なるんです。
 
 実は、このヒジが伸びた状態そのものは決してテニス肘の直接の原因ではありません
 
 サーブだって肘を伸ばしていますし、現代テニスでも肘を伸ばして(ストレートアームといいます)、フォアハンドを打っている選手はいっぱいますからね。
 
 しかし、問題は、ただ単にこの腕の形でスウィングをしても、まったくパンチの効いたボールが打てないことです。
 
 そこで、テイクバックからインパクトにかけて、
 
「ラケットトップを走らせる」
 
 という動きが必要になってしまう。
 
 これが、手首を使った、間違ったスウィングにつながりやすいんです。
 
 テイクバックの際には手首を手の甲の方向に曲げ(背屈)、ラケットの振り出しに合わせて、手首を掌側に曲げながら(掌屈)インパクト。
 
 このとき、掌屈させるために橈側手根屈筋・尺側手根屈筋・深指屈筋・浅指屈筋などが急激に収縮していることになります。
 
 この収縮しつづけようとしている状態で、ラケットに衝撃が加わると、筋肉は「引き延ばされる」ことになる。
 
 これが、筋肉の損傷を生み、テニス肘の主原因となります。
 
 これを最近「ゴルフ肘」と呼ばれるのは、腕を伸ばした状態でインパクトをするゴルフでも、同様な状態になるからだと思います。
 
 本来であれば、薄くラケット握っていても必ず痛くなるわけではありません。
 
 テイクバック時に十分脱力をし、腕の振り出しによって、ラケットが慣性の法則で遅れることで初めて背屈が起これば、ここで橈側手根屈筋・尺側手根屈筋が伸ばされ、「伸張反射」が起きます。
 
 筋肉は脳から30回/秒の電気信号が送られ、これが継続されることで収縮を持続させていますが、脊髄を中枢とした反射で起こる電気信号はほんの一瞬。
 
 橈側手根屈筋・尺側手根屈筋はスタートの瞬間非常に強く収縮しますが、それも一瞬で、インパクト時にはすでに適度に「脱力」しているはずなんです。
 
 インパクトの瞬間、力を入れるのは手首から先だけで、ラケットが「押される」のを防ぐだけ。
 
 この打ち方なら、よほど何時間も連続で練習をしない限り、筋肉に炎症が生じるほどの損傷は起きないんです。
 
 が、やっぱりみんな、パワーを得たい。
 
 そうすると背屈をテイクバック時から「意識して」めいっぱいおこない、伸張反射を使わずに「意識して」掌屈をして、インパクトの最中も力を入れっぱなしにして、無理矢理手首を使って打ってしまう。
 
 これが昔のフォアハンドによるテニス肘の原因でした。
 
 でも、現代テニスは違います
 
 まず、ラケットの握りが厚い。
 
 インパクト時、ラケット面を前に向けると、前腕の軸の方向とラケット軸の方向が、一直線に近くなります。
 
 こうなると、肘を伸ばす必要がないんです。
 
 肘を曲げた状態でも十分、ラケットを横に回転させて慣性モーメントを生み、さらにラケット面もしっかりと前を向いている。
 
 おなじ手首を「こねる」にしても、尺側手根屈筋の起点である上腕骨との位置関係が、腕を伸ばしたときの曲げたときでは変わり、尺側手根屈筋に「余裕」が生まれることで、肘を曲げたときには筋肉が痛みにくいんです。
 
 現在では、フォアハンドの「テニス肘」が少ない、というのはこういうことも要因だともいます。
 
 よほど無駄な力が入っていたり、過度の練習をしなければ、一定以上の筋力があればなかなかならない。
 
 ただ、最近では、フェデラーやナダルにあこがれて「ストレートアーム」で打つ人も多くなり、一定の筋力や正しい腕の使い方ができないまま、こういうフォームを真似ると、いろんな意味で(笑)けがをすることになります。
 
【次回へ続く】