本当の現象と体感とのギャップを作ってしまう大きな要因は、「ボールがラケット面で『空回り』をしている」のイメージ。
 
 最近、テニスのテレビ中継などを見ると、インターバルの間に、スーパースロー映像が流れることが多くなりました。
 
 選手がボールをインパクトした瞬間などが捉えられているものもありますが、ラケット面の上でボールが「空回り」していることはありません
 
 ラリー中、ボール表面のフェルト素材と、ラケットガットのナイロン、ポリエチレンとの間に働く摩擦力は十分高いんです。
 
 素材による違いもほぼありません。
 
 必ずストリングス面で瞬間的に「静止」し、そこから、ガット面の移動速度に合わせて、ボールが回転します。
 
 よくストリングスが細かったり、表面が凸凹であったり、多角形をしていたりすることで「スピンがよくかかる」と喧伝されているものがありますが、これも半分以下に聞いておいた方がいいんです(何故「半分」なのかは、後述)。
 
 丸く太いガットだとボールが「すべって」空回りするイメージがあるかも知れませんが、通常はありえないことが分かっています(通常じゃない場合は、これも後述)。
 
 これはもう、スーパースロー映像で確認してもらえば一発です。
 
 実際、バウンド後のボールの回転数って、かなり少ないですからね。
 
 つまり、一定以上の──つまり空回りしない最低限の摩擦力さえあれば、スピン量には基本的な影響はない、ということになります。
 
 床に置いたボールを、強く押さえつけて転がそうと、弱く押さえつけて転がそうと、転がる距離は変わりませんから。
 
 そして、一番大切なところ。
 
 トップスピンの回転数は、ラケットスピードに比例する、ということです。
 
 厳密に言えば、ボールをこすり上げるガット面の移動速度、ということになるでしょうか。
 
 つまり、接触時間の「長さ」は全く関係ないんです。
 
 この「接触時間が長くなると、より強いスピンをかけられる」というイメージも、やはり「空回り」やラケットの「加速」のイメージがあるから
 
 接触時間が長いと、空回りでのロスを帳消しにし、また時間が長ければ長いほど加速度の分だけ速くなるイメージがどうしてもあります。
 
 が、これも違うんです
 
 まず、先ほども言ったように、ラケット面での空回りは、当たりが薄すぎるときなど、特別な場合を除いてほとんどありません。
 
 これはスーパースロー映像で証明されている。
 
 また接触時間の長さそのものは、スピンの回転数には一切関係ありません。
 
 ボールの直径は、6.54cm~6.86cmですので、今回は6.6cmとしましょう。
 
 その円周は、6.60mm×3.14(円周率π)≒20.724cm。
 
 このボールを1秒間に30回転させるには、平均的なボールの接触時間 5/1000秒で、54°回転させる必要があります。
 
 円周20.724cmのボールを54°回転させるには、なんと
 
 20.724cm×(54°/360°) ≒ 3.101cm!!
 
 たった、3cmです。
 
 ラケット面とボールとの接地面の延長線上に時速21.6kmでボールをこすり上げればいいことになるんです。
 
 たとえば、ラケット面を完全に垂直にし、ラケットを30°で振り上げながら、まっすぐ前方から飛んできたボールを打つ場合、42.6km/hでラケットをスウィングすれば良いことになります。
 
 まあもちろん、ボールがそれで前に飛ぶのか、っていうのとは、別の話ですが(笑)。
 
 しかも、これは接触時間が長くなっても同じ。
 
 ラケットスピードが変わらなければ、5/1000秒で3cmこすっていたものが、接触時間が倍の(現実にはないですが)10/1000秒になっても、6cmこすることになるだけ
 
 倍の時間で、倍の距離をこすったって、回転速度には影響がない
 
 やはり、僕たちのイメージは、その接触時間の間に、ラケットを加速させ続けるイメージをどうしても持ってしまうので、接触時間が長ければ長いほど加速し続けるはず、というイメージのまま、回転速度が増えていくような錯覚を覚えるんです。
 
 これも、「ボールをつぶすと速度が速くなる」の時と同じで、ラケットとボールが接触すれば、ラケットヘッドはボールに圧されて減速し、そこから腕の力で再び加速を始めますから、加速している「イメージ」そのものが間違いではない。
 
 でも、その加速がボールの回転スピードに寄与することはほとんどないのは、前々回の計算の通りです。
 
 これも結論的には、
 
「ボールがつぶれるほどに速いスウィングスピードならば、自然と強いスピンがかかる」
 
 ということでしかなく、「つぶすこと」そのものが目的ではないわけですね。
 
 実は、これは、ガットのテンションによる、「トップスピン」のかかりやすさにも関係してきます。
 
 よく言いますよね?
 
「テンションを緩めると、トップスピンがかかりやすい」って。
 
 でも、これも、ここまで述べてきた理論と論点は同じ。
 
「ガットがボールを包み込むようにたわんで接触面積が増えるから」
 
 とか、
 
「ガットとボールとの接触時間が長くなるので」
 
 とか。
 
 こう考えると、これも間違いだ、ということが分かってきます。
 
 ただ、これも「体感」としては確かにあるわけで。。。それについてはまた後日考察をしていきます。
 
【次回へ続く】