『ゆきはねちゃんいるー?』
ベッドサイドの携帯が鳴り、布団に潜り込んだ状態から手だけを音のほうにのばす。携帯を掴むと頭を出し電話に出ると電話口の声は聞き知った低音のエルヴァーン女性のものだった。
寝起き様に「あんだ?」と不機嫌な声を漏らしながら、ユキハネはベッド上で上体を起こす。
『今暇かしら?』
「だとしたらなんだ?」
更に不機嫌な声を発しながらベッドサイドにおいたマルボロの箱を取り、一本口に含むと右手の人差し指をその下にあていつもの微弱ファイアを放つ。
『あなた、寝てたでしょ?』
「悪いか?で、用件はなんだ?」
なかなか本題に入らない自らの義姉に苛立ちながら空に昇り立つ煙を睨みつける。
『あ、そうそう。暇ならジュノに今すぐいらっしゃい。』丁寧な言葉だが語気に力を感じる。いつものことながらこの女は威圧感を放っていることに気づいているのだろうか?
ユキハネは自問し、自答するより早く「なんでだ?」と返した。
「どこか行くのか?」
『うーうーん。違うけど見せたいものがあるの。』
ぼーっとする頭にマルボロのニコチンが染み渡り始めると、体を動かしたほうがいい気がしてきた。
「いいだろう。」
短く切ると通話を終わり、まだ半分以上残るマルボロを消し炭に変えた。
「お出かけクポ?」
「ああ。我が愛しの姉君からの召集だ。」
言いながら寝巻のヴァンパイアクロークを脱ぎ去ると、水着のベストを羽織る。
鏡の前ではネズミ獣人キキルンの頭を模した被り物を被り、リーゼントを撫でるように両手でキキルンの鼻先を前に一度擦りあげた。本能が盾の必要性を感じた気がして、かばんの中の装備をチェックし始めた。
ジュノ大公国。
ミンダルシアとクォンの二大陸間を結ぶ巨大な橋の上に建つ国で、本来は交通の要衝だった場所が丸ごと国になった都市国家であり、特徴として縦に長い。この縦と言うのは、南北の縦と言うのもではなく上下、つまり上に上にと伸びているものだ。
少しずつ違う角度で折り重なる立体交差の3本の橋がかかり、その一番上のプレートが通称庭と呼ばれるル・ルデの庭になっている。上の二つはそれぞれ居住街、商業街として使われている上層と下層。一番下の層はほぼ海に隣接する低空で架かる橋であり、飛空艇の離発着場にされている港と呼ばれていた。
下層にあるゴブリンのマックビクスの店に毎回タバコを買い付けにくるユキハネは、飛空挺で乗り入れるのが好きで、帰りにマックビクスのところへ寄ろうかとも考えながら、迫る潮風に紫煙を吐き出した。ジュノが近づいてくる。
「間もなくジュノだ。もうすぐつく。」
『飛空艇?』
「ああ。」
『じゃあ港で待ってるわね。』
嫌にテンションが高い。軽装ではいけないと脳が警鐘をガンガンに鳴らす。
(あのババァ…なにがあった?)
疑心が暗鬼を宿しながら、マルボロを燃やし、鞄から鎧類を取り出して着込む。盾はまだ持たない。
ジュノ港に入るとタラップを駆け降り、階上の街へ急いだ。姉は待たせると後が面倒なのだ。
「ゆきはねちゃーん!」
「おう、ねーち…」
「ばーーーん!!」
なにがあったか理解するまでに数秒の時間を要した。視界がスパークし、脳が揺れ動く。四肢から力が抜け落ち、体が浮遊していることだけを理解して上も下もわからなくなっていく。
気付いた時には地面に顔を臥していた。視界が次第に狭まり、白い靄が視界の周りを覆っていくのを脳が知覚している。
以前似たような攻撃を受けたことがある。
あの時は来ることが分かっていたためかるい痺れを感じただけで済んだのを覚えている。
シールドストライク。AAEVの技でバッシュよりも強力な盾打だったそれを喰らった記憶を鮮明に呼び覚まし、ユキハネは目を見開いて意識を取り戻した。
「このクソババァ!なにしやがる!」
跳ね起きたユキハネは激昂しながら目の前の自らの義姉ーエカテリーナーを睨め付けた。
「あ、生きてた。」
「殺す気だったのか…」
エカテリーナの言葉に戦慄しつつ自らを殴り付けた盾を見た。直径80センチメートルほどのそれは、顔のような意匠を施された金色の大型盾。その名はーー
「堅牢なる聖盾ーイージスーか…」
伝説の剣ーエクスカリバーーと並ぶナイトの最強の装備。これに並ぶ品はないとさえ言われた至高の輝きは20年前の大戦で失われたものだ。
「すごいでしょー!やっと出来たんだ!」
年甲斐もなくはしゃぐエカテリーナは、今にももう一発バッシュをかましそうでユキハネの表情は恐怖にそまり、身を引く。
「もう一発撃たせて!」
「おい、ババァ!まっ…」
待て、とは最後まで言わせてもらえなかった。予備動作の一切ない左腕が弧を描きながらユキハネの顎先を捕らえ、そのままアッパーのように振り上げられる。再度宙を舞ったユキハネの体は行き場を地へ求め、重力の虜となる。石畳へ打ち付けられる前にはすでにユキハネに意識はなかった。
目が覚めるとまたいつもの天井があった。
(…夢?)
上半身を起こすと体に纏ったヴァンパイアクロークがきぬ擦れする。
「ご主人様お目ざめクポ?」
「…」
(糞豚だ。特にいつもと様子は変わらない…)
「夢?…か。」
つぶやきつつ額に手を当てうなだれる。
「嫌な夢でも見たクポ?酷い汗クポ。」
ぼんやりと焦点の合わない目を擦りながらモーグリのほうへ顔を向ける。
「そう…だな。酷い夢だった。」
「おねえさまクポ?」
「寝言でも言ったか?俺。」
「うなされてたクポ。これでも飲むクポ。」
モーグリが差し出した瓶には紫色の液体が入っていた。部屋に酔狂で置いた飲料樽から出るグレープジュースだ。ユキハネは瓶の蓋を外すと渇いた喉に一気に流し込む。冷たい感触が喉を伝うと、入れ違いに口や鼻の方へ甘い香りが抜けていった。
「…近い将来実際に起こるんだろうな。」
ユキハネの呟きはぬるりとした嫌な感触を孕みながら狭い自室を巡り、暖炉から立ち上る暖かさの中に静かに消えていった。渇いたユキハネの口の中同様、粘ついたシコリのように胸に支えた感情がユキハネから消えるのに、その一日は長かった。
ヴァナ上の義姉Ekaterinaさん応援ブログ。
朝の通勤電車で寝てたらこの夢で席から落ちるほどびっくりして飛び起きた。
短時間の浅い眠り、特に二度寝のときって夢みるよね。
ある意味実話の夢であった。 もちろん俺の扱いにかんしても・・・・w
ベッドサイドの携帯が鳴り、布団に潜り込んだ状態から手だけを音のほうにのばす。携帯を掴むと頭を出し電話に出ると電話口の声は聞き知った低音のエルヴァーン女性のものだった。
寝起き様に「あんだ?」と不機嫌な声を漏らしながら、ユキハネはベッド上で上体を起こす。
『今暇かしら?』
「だとしたらなんだ?」
更に不機嫌な声を発しながらベッドサイドにおいたマルボロの箱を取り、一本口に含むと右手の人差し指をその下にあていつもの微弱ファイアを放つ。
『あなた、寝てたでしょ?』
「悪いか?で、用件はなんだ?」
なかなか本題に入らない自らの義姉に苛立ちながら空に昇り立つ煙を睨みつける。
『あ、そうそう。暇ならジュノに今すぐいらっしゃい。』丁寧な言葉だが語気に力を感じる。いつものことながらこの女は威圧感を放っていることに気づいているのだろうか?
ユキハネは自問し、自答するより早く「なんでだ?」と返した。
「どこか行くのか?」
『うーうーん。違うけど見せたいものがあるの。』
ぼーっとする頭にマルボロのニコチンが染み渡り始めると、体を動かしたほうがいい気がしてきた。
「いいだろう。」
短く切ると通話を終わり、まだ半分以上残るマルボロを消し炭に変えた。
「お出かけクポ?」
「ああ。我が愛しの姉君からの召集だ。」
言いながら寝巻のヴァンパイアクロークを脱ぎ去ると、水着のベストを羽織る。
鏡の前ではネズミ獣人キキルンの頭を模した被り物を被り、リーゼントを撫でるように両手でキキルンの鼻先を前に一度擦りあげた。本能が盾の必要性を感じた気がして、かばんの中の装備をチェックし始めた。
ジュノ大公国。
ミンダルシアとクォンの二大陸間を結ぶ巨大な橋の上に建つ国で、本来は交通の要衝だった場所が丸ごと国になった都市国家であり、特徴として縦に長い。この縦と言うのは、南北の縦と言うのもではなく上下、つまり上に上にと伸びているものだ。
少しずつ違う角度で折り重なる立体交差の3本の橋がかかり、その一番上のプレートが通称庭と呼ばれるル・ルデの庭になっている。上の二つはそれぞれ居住街、商業街として使われている上層と下層。一番下の層はほぼ海に隣接する低空で架かる橋であり、飛空艇の離発着場にされている港と呼ばれていた。
下層にあるゴブリンのマックビクスの店に毎回タバコを買い付けにくるユキハネは、飛空挺で乗り入れるのが好きで、帰りにマックビクスのところへ寄ろうかとも考えながら、迫る潮風に紫煙を吐き出した。ジュノが近づいてくる。
「間もなくジュノだ。もうすぐつく。」
『飛空艇?』
「ああ。」
『じゃあ港で待ってるわね。』
嫌にテンションが高い。軽装ではいけないと脳が警鐘をガンガンに鳴らす。
(あのババァ…なにがあった?)
疑心が暗鬼を宿しながら、マルボロを燃やし、鞄から鎧類を取り出して着込む。盾はまだ持たない。
ジュノ港に入るとタラップを駆け降り、階上の街へ急いだ。姉は待たせると後が面倒なのだ。
「ゆきはねちゃーん!」
「おう、ねーち…」
「ばーーーん!!」
なにがあったか理解するまでに数秒の時間を要した。視界がスパークし、脳が揺れ動く。四肢から力が抜け落ち、体が浮遊していることだけを理解して上も下もわからなくなっていく。
気付いた時には地面に顔を臥していた。視界が次第に狭まり、白い靄が視界の周りを覆っていくのを脳が知覚している。
以前似たような攻撃を受けたことがある。
あの時は来ることが分かっていたためかるい痺れを感じただけで済んだのを覚えている。
シールドストライク。AAEVの技でバッシュよりも強力な盾打だったそれを喰らった記憶を鮮明に呼び覚まし、ユキハネは目を見開いて意識を取り戻した。
「このクソババァ!なにしやがる!」
跳ね起きたユキハネは激昂しながら目の前の自らの義姉ーエカテリーナーを睨め付けた。
「あ、生きてた。」
「殺す気だったのか…」
エカテリーナの言葉に戦慄しつつ自らを殴り付けた盾を見た。直径80センチメートルほどのそれは、顔のような意匠を施された金色の大型盾。その名はーー
「堅牢なる聖盾ーイージスーか…」
伝説の剣ーエクスカリバーーと並ぶナイトの最強の装備。これに並ぶ品はないとさえ言われた至高の輝きは20年前の大戦で失われたものだ。
「すごいでしょー!やっと出来たんだ!」
年甲斐もなくはしゃぐエカテリーナは、今にももう一発バッシュをかましそうでユキハネの表情は恐怖にそまり、身を引く。
「もう一発撃たせて!」
「おい、ババァ!まっ…」
待て、とは最後まで言わせてもらえなかった。予備動作の一切ない左腕が弧を描きながらユキハネの顎先を捕らえ、そのままアッパーのように振り上げられる。再度宙を舞ったユキハネの体は行き場を地へ求め、重力の虜となる。石畳へ打ち付けられる前にはすでにユキハネに意識はなかった。
目が覚めるとまたいつもの天井があった。
(…夢?)
上半身を起こすと体に纏ったヴァンパイアクロークがきぬ擦れする。
「ご主人様お目ざめクポ?」
「…」
(糞豚だ。特にいつもと様子は変わらない…)
「夢?…か。」
つぶやきつつ額に手を当てうなだれる。
「嫌な夢でも見たクポ?酷い汗クポ。」
ぼんやりと焦点の合わない目を擦りながらモーグリのほうへ顔を向ける。
「そう…だな。酷い夢だった。」
「おねえさまクポ?」
「寝言でも言ったか?俺。」
「うなされてたクポ。これでも飲むクポ。」
モーグリが差し出した瓶には紫色の液体が入っていた。部屋に酔狂で置いた飲料樽から出るグレープジュースだ。ユキハネは瓶の蓋を外すと渇いた喉に一気に流し込む。冷たい感触が喉を伝うと、入れ違いに口や鼻の方へ甘い香りが抜けていった。
「…近い将来実際に起こるんだろうな。」
ユキハネの呟きはぬるりとした嫌な感触を孕みながら狭い自室を巡り、暖炉から立ち上る暖かさの中に静かに消えていった。渇いたユキハネの口の中同様、粘ついたシコリのように胸に支えた感情がユキハネから消えるのに、その一日は長かった。
ヴァナ上の義姉Ekaterinaさん応援ブログ。
朝の通勤電車で寝てたらこの夢で席から落ちるほどびっくりして飛び起きた。
短時間の浅い眠り、特に二度寝のときって夢みるよね。
ある意味実話の夢であった。 もちろん俺の扱いにかんしても・・・・w