何ヶ月ものあいだブログを放置してしまいました。
仕切り直しとしてアルバム批評をお送りします。
1965年発売 モダン・フォーク・ソング
この前神保町へ訪れた際にゲットした貴重な一枚です。ダークの歌うフォークソングほど心安らぐものはないですね。このアルバムでは第1面にアメリカ発のフォークソング、第2面には自主制作の曲が並んでいます。ジャケット背面には音楽評論家の岡野弁氏の解説が載っているので、それを基に解説していきたいと思います。
なお、各曲の作詞作曲者などはこちらから。
1.パフ Puff
魔法の龍の「パフ」、そして遊び仲間「ジャッキー・ペーパー」が題材。内容としては、最初のうちは共に遊んでいたジャッキーがそのうち大人になり、疎遠になってしまった…というなんとも悲しいお話。岡野氏の解説では「社会性で食い足りない」とありますが、ジャッキーが大人になって遊ばなくなってしまった理由は戦争に行ってしまったからではないか、との説もあるようです。しかし、この説は制作者が否定しているそうで、「子供の成長を描いた曲」として受け取る方が正しいのかもしれません。歌唱面だと、マンガさんの生き生きとしたメインパートが聞けるありがたい一曲です。
2.ドンナ・ドンナ Donna Donna
原曲は市場に売られていく子牛に対して「生まれ変わったら自由に空を飛べる小鳥になっておいで」といった風に、生と死の悲しさを歌った曲です。ですがダークダックス風にアレンジを利かせ、思いを寄せていた美しい人が他の男と腕を組み消えていった…という失恋の歌に生まれ変わりました。悲壮感あふれる歌唱と演奏が聴かせます。
3.いとしのメリアン Marry Anne
毛皮商人は寒い冬の間、家族や恋人と共に過ごすことができます。ですがあたたかい春になれば、再び商いに出ていかなければなりません。そんな別れの時を歌った素朴な民謡がこの曲なのです。また、ダークの上品なハーモニーでより一層その別れを美しく彩っています。簡単に商品が手に入る現代において、短いながらもそのメッセージ性がひしと込められたこの曲こそ大切にしていくべき曲なのかもしれません。
4.ローリー、泣かないで Laurie, Don't Worry
愛する彼とケンカしてしまった女の子。「ケンカするのは愛しすぎるから。大人になったら誰にでも陥ることなのさ。きっとあいつも今ごろ後悔しているよ…」と慰めの言葉をかけるという曲。純粋な愛と友情ある慰めの言葉が心を打つ素敵なフォークソングのひとつです。当時30代に突入していたダークによる歌唱が、その慰めに説得力を持たせています。
5.レモン・トゥリー Lemon Tree
黄色くてみずみずしい、そしてなにより可愛いこのレモン。だけどその中身はスッパイ。恋とよく似ていると父に教えられたのを、失恋した今思い出しているというのがこの曲。レモンはその見た目と同じにおいしいのか?それを知った今、あの頃をしみじみ懐かしむというメッセージも込められているようです。
6.グリーン・グリーン Green Green
誰にでも「旅に出たい」と思う時があります。そしてそれは「雄大な自然に触れたい!」という強い気持ちの表れでもあるでしょう。この曲ではそんな思いを抱いた少年の緑への憧れを描いています。この時期特有のすました子供の雰囲気を、ダークが見事に表現しています。
7.ふるさとの歌
ふるさとはいつでも心の拠り所。ふるさとの空、歌、緑、太陽…。そのすべてが都会に疲れた人間を優しく包んでくれます。自分のふるさとを見つめ直せるような、そんな気がしてくる曲です。この曲はかのいずみたく氏が珍しく作詞作曲を共に担当。別の意味でも貴重な一曲となっています。
8.消えない顔
「銃殺執行兵士の歌」の副題がつけられたこの曲は、当時も続いていたベトナム戦争における公開処刑など、戦争によって起きる無慈悲な悲劇を歌い上げています。「撃てというのは命令なのさ 撃たなきゃ俺が殺される」といった痛切な歌詞が心に深く突き刺さります。夜毎酒を仰いでも、あいつの顔はいつまで経っても消えない…そのやり場のなさが戦争の悲惨さを我々に強く訴えかけてきます。
9.皿の上の一匹の魚
食卓に並んでいる一匹の魚。私たちの手に届くまで、一体どれほどの人が苦労しているのでしょう。現在に至るまで議論されているように、海上ではそれぞれの国が利益を守るために見えない境界線を引いて牽制しあっています。強国の境界線は広く、弱国が圧迫されるばかり。それでも弱国の人々は生活のために、漁をして食糧を得なければなりません。それも生命をかけて。そう考えると、気軽に食べていた目の前の魚の味も変わってくるかもしれません。ダークダックス作曲による社会風刺のきいた一曲です。
10.忘れないで、あの人を
このアルバムが発売された1960年代は、まさに高度経済成長の真っ盛り。ですがその影には、交通戦争という陰も付きまとっていました。人ひとりと言っても、そこには沢山の想いが詰まっています。それらをいとも簡単に奪ってしまうのが交通事故です。やりたい事があっても、死を前にしてはそれらも叶わないことばかりです。奪われたものは戻ってきません。「憶い出して、忘れないで」という強い思いを、交通事故で友人を失った藤田敏雄氏の歌詞でダークが歌います。
11.中村五郎
戦後において、「名誉」「理想」「男らしさ」といった言葉たちが廃れていきました。ですが、そのような言葉の中でも滅びてしまっては困る言葉があります。中村五郎という男は、それらの廃れた言葉を体現しました。どれにしたって、中村五郎には良く似合う言葉なのです。良心、責任、親子愛…「男とはこうあるべきだ」という教えを7分に凝縮した珠玉の一曲です。
やはり何と言ってもこのアルバムの目玉は「中村五郎」。ダークダックスの変名として使われるようになったのもむべなるかな、と頷ける名曲です。また、藤田敏雄氏作詞の「忘れないで、あの人を」も事故で友を失ったからこその悲痛の叫びがよく現れていて、それをダークの歌声で聞くことで、生きるということの儚さをしみじみ感じさせられます。
僭越ながら自分の言葉で書かせてもらった所もありましたが、このアルバムの魅力が十分に伝わったら幸いです。充実したダークダックス・ライフを。それではまた〜。