所謂、精神病病棟に入ったことがある。
空が見える廊下には鉄格子が嵌められ、私物はすべて看護師に管理されていた。
食事も風呂に入るのもすべて決められた時間に、順番に限られた時間に行わなければならなかった。
眠ることが出来なかった私は毎朝、近くを走る高速道路の自動車のエンジン音をミーティングルームで聞いていた。
入院時には40キロだった体重が飲まず食わず眠れずの日々で32キロになった。
「娘さんの命は諦めてください」
医者は母にそう言った。
電話口で泣く母の声に、生きなきゃいけないのかな、と漠然と思った。
だけど3か月を病院で過ごして、あぁ私は変われないと気付いて、退院した。
あれから随分と時が経った。
今でも眠れないし食べられないし(食べることには理由付けが必要だ)太ることは許せない。
このままいつまで生きているんだろう。
腹が減っては死にたいと思い、飯を食っては死にたいと思い、母が死ねば私も死んでいいのだと思い。
母がいなくなった日々を想像している自分を殺してしまいたい。
母がまだ眠っている朝早く、静かに生きている。
特許許可局がいち早く啼き始め空が白地んでくるまで、静かに遠くの音を聞いている。
