マンションはとかく人の出入りが激しいのが顕著にわかる。


共同住宅だから人も多いし当たり前だ、と思われても否定はしない。


誰かがマンションを売り払えば誰かがマンションを買い受け、誰かがマンションを貸し出せば誰かがマンションを借り受ける。


そうした時、売買や賃貸は宅建業者を利用するのが慣例というか通例というか。


わずかながら例外がある。


地方のとあるマンション(以下、JYマンション)でのある出来事がかなり物議を醸した。


そのマンションのひとりの区分所有者が病気療養の甲斐なく亡くなった。


その区分所有者(以下、Kさん)が亡くなってしばらく経ったある日、その実兄を名乗る人物から電話があり、直接相談したいことがあるので来社したいとの申し出があった。


地方から都市部まで片道1時間半かけてわざわざ来るのだから、のっぴきならない事情があるのに違いない。


我々は会って話すこととなった。


話の内容はこうだった。


①Kさんは独身であった為、専有部分は実母が相続し、新区分所有者とする。


②その実母は痴呆が進行しており、この実兄が後見人になっている。


そして


③Kさんの友人(以下、Yさん)に当該専有部分を使用させたい


だった。


①、②については法律上問題ないし、我々管理会社の範疇ではない。


問題は③である。


聞けば、KさんとYさんは、Kさんが亡くなる直前まで親交があり、配偶者も子もないKさんの身の回りの世話をYさんが非常に献身的にしてきたらしい。


そうした事情もあってか、Yさんに自分のマンションに住まわせたいとのKさんの遺言があったというのだ。


実兄自身、実母の介護に労力と時間を割かれ、実の兄妹にも関わらずお見舞いや看取ることすらもままならなかったと、後悔の念を抱いており、お世話になったYさんに是非に住まわせたいと我々に申し出たのだ。


専有部分を第三者に貸し出して使用させること自体に法律上の問題はない。


だが、宅建業者を介さずに専有部分を占有させることになんとなく違和感があった。


我々は宅建業者ではなく、ましてや他人様のマンションの所有や使用の権利関係には全く以て感知はしない。


気になるのは、宅建業者なら行うべき占有者の素性や属性等々の審査を経ずして、このまま入居してもらうことに果たして問題はないと言えるのだろうか、ということだった。


通常管理会社は、マンションの賃貸借契約にともなう入居者情報は宅建業者である不動産会社から入手する。


その際、管理会社からは各マンションの管理規約に付帯する所定の入居者届を不動産会社へ送付し、入居者に記入してもらったものを返送してもらうのが一連の流れである。


管理会社が手にする入居者届は、不動産会社の審査等々が済んだ後でのものとなる。


当然ながら、審査等々に漏れた入居者情報はこちらへ届くことはあり得ない。


少しまどろっこしくなったが、つまりはこのYさんがJYマンションに住むのにふさわしい人物なのか、という問題を管理会社サイドで判断するに値しないというところだ。


Yさんは反社会的勢力に属していないだろうか、とか、マンションのルールを守ってくれるのだろうか、とか。


人伝いの話や見た目だけでは計り知れない物事を様々な角度から見なければならない。


その機能が管理会社にはない。


その為、私は管理組合に相談する旨を実兄に回答するにとどまった。


早速、理事長へ相談したが、理事長も独断では決められないとのことで、理事会にて協議することとなった。


後日、理事会にて協議の結果、Yさんには入居者届に真実を書いてもらい、また、特定の誓約書がない為、管理規約や使用細則を充分遵守してもらうこととを約束してもらう旨を決議した。


理事会の翌日、私はKさんの実兄に理事会の見解を伝えるべく連絡をし、了承を得た。また、それとは別に、Yさんへ一度管理会社宛に連絡してもらいたいと伝えた。


ところが、待てど暮らせどYさんからの連絡がない。


そうした中、JYマンションの管理員から連絡が入る。


管理員はかなり慌てた口調で私にこう言った。


「突然引っ越し業者がマンション前にトラックを停めて荷物の搬入をしようとしてたのでこちらで引き止めてます!!今かなり揉めてます!!」


もう嫌な予感しかしなかった。


(続く)