今日は木枯らしが吹いたらしい。
わざわざ一号と、順番をつけてニュースになっていた。
昨日は台風が街を襲って、誰も外出しない。
周りは雨の音だけで、
私は悪魔の審判を待っているような気持ちでならなかった。
心の中に疑問のない時は、本当に素晴らしい。
空気が、新鮮に取り込まれて
細胞はそれを得て身体を動かしてくれるのを感じる。
今はそうはいかなくて、少し心配ごとがあって、おなかが痛い。
足取りは重いし夜もうまくねれない。
今周りにあるその世界で溺れていたいのに、疑いが消えない。
自分を叩いても抓っても、足りない。
あんなことがなかったら、良かった。
検査結果を聞きに行く。
そこまでたどり着くのに、家を出なくちゃいけない。
見慣れた街を歩いて別れを告げなくちゃいけない。
なんでそんな気持ちになるために、応募なんてしたんだろう。
私が適合していたら、どうなるんだろう。
世界がきっと
180度変わってしまうのは分かってる。
そしたらさっぱり全てを投げ売ってみよう。
家族と美味しいものをたくさん食べてさ。
幸せな未来を約束しよう。
私が適合していたら。
彼にはなんて言おう。
もう叩くのも掻き切るのもやめて、綺麗な自分を見せてあげたい。
生まれ変わったと、告白して
本当の愛の言葉を伝えたい。
本当の愛なんて、知らない。どういうことなんだろう。身体でも心でもないなら。
教えてほしい、悪魔じゃなくて、神さまとか。
私の心に神さまみたいに強く信じれるものがあって、
それを持ってして存在するなら。
疑いからも心配からも、うまく抜け出せる気がする。
そう言えば、神様は悲しみと苦痛と、ほんの少しの愛を私にくれる。
だけどごめんなさい。私はそれも疑って生きてしまう。
例えば私が適合してたら。
きっと絶望的に美しい世界に
鋭角にシフトしていく。
その時にすごく感じさせてくれたらそれでいい。
そんなことを、取り留めもなく考えてしまう。。
結果を聞く、その場所に来た。
さっきから気付いてたけど、鼓動が音漏れするくらい大きく聞こえる。
おなかはもう痛くない。
もしかしたら、明日からエイリアンみたいに生きて行くのかもしれない。
この地球を、ナナメから見なくちゃいけない。
それも、
もしかしたら素晴らしい世界。
そしたらそうやって生きて行くから。もう平気。
私が無駄にしてきた血と、消えかけた蛍光灯みたいな心と
全部調べてもらった。逃げられない。
厳格な施設に足を踏み入れる。
ここは空気が少し重たい。
エントランスの女性は冷ややかに笑って
私にカードを渡す。
この女は、私の検査結果を知ってる。
直感はそう私に告げて、
咄嗟に睨みつけてしまった。
無機質な廊下を歩いていって突き当たりの会議室の前で座ってる。
施設の前には大きな公園や道路があったのに、今は何の音もしない。
足取りがもう軽いのに驚いてしまう。
準備はもう、きっとできてる。
私が適合してるなんて理屈は何処にもないじゃない。
何を恨んで、これから生きていけば良いのか分からない。
きっと適合の烙印が、この後私に押されることになる。
ああ、なんて素晴らしい。
それでも生きて行くんだろうなんて、考えてみたら。
もう何もいらない自分で生きていけるから。
でもほんとはね。
少し名残惜しい。
もっと正直に言うと、とてもかなしい。
この退屈で苦しい世界を
実はとても愛しているみたいで。
