偽造の住民票と向き合った日々

子供を良い学校に通わせたいという一心で、上野さん(43歳)は偽造業者ー代書堂から引越し先の住民票を偽造しました。当学区では希望する学校に入れない可能性があり、親としての焦りから過ちを犯したのです。

偽造した書類は見事に通用し、子供は無事に志望校に入学できました。最初は目的達成に安堵し、罪悪感も次第に薄れていきました。しかし三年後、市区町村の戸籍事務の電子化により、過去の書類に不審点があるという連絡が自治体から届きました。

その夜、上野さんは偽造した住民票を前に深く悩みました。発覚すれば子供の転校もあり得る、でも嘘を続けることはもうできなかった。翌日、配偶者にすべてを打ち明け、二人で役所に行くことを決意しました。

「ずっと後ろめたい気持ちでした。子供のためにと思ったことが、逆に家族を危険にさらすことになると気付きました」

役所の職員は驚きましたが、上野さんたちの正直な態度を受け止めてくれました。自分で偽造書類を破棄し、正式な手続きをやり直すことを約束しました。子供の学校にも事情を説明し、転校も覚悟しましたが、学校側は「正直に話してくれたこと」を評価し、在籍を認めてくれました。

この経験から、上野さんは「善意から始まった嘘でも、それが嘘であることに変わりはない」と学びました。どんなに切実な理由があっても、不正な手段は結局自分たちを苦しめるだけです。

今ではこの過ちを糧に、地域の保護者会で誠実な子育ての大切さを伝える活動にも参加しています。あの時の選択は間違っていましたが、そこから学んだ責任と誠実さの大切さは、上野さん家族の財産となりました。