偽りのスコアが引き裂いた未来
小林涼太(28歳)は、外資系企業で働く営業マンだった。周囲の同僚が流暢な英語を操る中、自身の英語力にコンプレックスを抱え、なかなか昇進のチャンスを掴めずにいた。そんな時、上司から「TOEIC800点以上が次期昇進の条件」という通達が届く。
焦りと絶望感に駆られた涼太は、ある夜、闇サイトで「TOEICスコア証明書偽造」という業者を見つける。本来なら避けるべき選択だと分かっていたが、キャッチアップしたいという思いが偽造へと手を染めさせた。
数日後、届いた証明書は驚くほど精巧で、人事部は何の疑いもなく受理した。涼太は無事に昇進を果たし、一念発起して英会話スクールにも通い始める。しかし、偽りの証明書を足元に置きながら英語力を磨く日々は、常に後ろめたさとの戦いだった。
転機は、昇進から半年後に訪れた。アメリカの重要クライアントが来日し、涼太は通訳付きながらも接待を任される。ところが、急遽通訳が発熱で欠席するハプニングが発生。英語で簡単な対応を期待された涼太は、冷や汗をかきながら単語を並べるのが精一杯だった。
「TOEIC800点の実力とは思えないね」
上司の何気ない一言が、職場に微妙な空気を蔓延させた。それ以降、同僚の視線が徐々に冷たくなっていくのを感じた。涼太が英語の会議で発言するたび、周囲は無言のプレッシャーで彼を包んだ。
「自分の実力で挑戦するべきだった。偽りのスタートラインに立った瞬間、すべてが歪んでいった」
涼太は退職を余儀なくされ、転職活動でもTOEICスコアの説明を求められるたび、過去の過ちと向き合うことになった。たった一枚の偽造証明書が、彼のキャリアと自信、そして英語そのものへの純粋な興味まで奪ってしまったのである。