偽造の代償:卒業証明書に溺れた野心
夢を諦めきれないばかりに
山田拓也(23歳)は、就職活動に行き詰まっていた。志望する大手企業の応募条件には「四大卒以上」と明確に記載されていた。実際には中退だった彼は、何度も書類選考で落とされる現実に直面していた。
ある夜、ネットサーフィンをしていると、「需要に応じて各種卒業証明書証明書を偽造」という怪しい広告を見つける。引き返す最後の機会だったが、焦りと諦めが彼を後押しした。メールで問い合わせると、驚くほど精巧なサンプル画像が送られてきた。
「もう後戻りはできない」
そう自分に言い聞かせ、拓也は偽造の卒業証明書を購入した。
偽りのスタートライン
見事な偽造証明書は、企業の人事部員の目を確かに欺いた。拓也は念願の大手企業への入社を決め、同期の中でも抜群の成績で評価されていく。しかし、成功するほどに、彼は自分の中に潜む虚構に怯えるようになった。社内の教育プログラムで大学の専門課程について質問されると、冷や汗をかいた。社員証の再発行手続きで学歴確認が必要になった時は、胃が痛む思いをした。
崩壊の始まり
転機は、入社から2年が経ったとき訪れた。拓也が所属するプロジェクトに、彼の「母校」の出身者が加わったのである。何気ない雑談の中で、その同期が大学の細かい慣習や教授の特徴について話し始めた。拓也は即興で合わせなければならず、話に矛盾が生じ始めた。
疑念を抱いた同僚は、人事部に内部通報した。企業は正式な経路で大学に確認を取った。当然ながら、大学側は「該当する卒業生の記録はない」と回答する。
今、拓也は更生施設でボランティアとして、自身の過ちを語り続けている。「あの時、偽造という手段を選んだことが、全ての不幸の始まりでした。どんなに苦しくても、正直な道を歩むべきだった」と後悔の言葉を述べる彼の姿は、社会の厳しい現実と個人の選択の重要性を静かに問いかけている。