日本国内におけるグラスロッド創始の歴史を調べるようになって、5年ほど経ちます。

きっかけは、Yahoo!知恵袋で出会った質問でした。

「国産初のグラス投げ竿は何？NFTの創業年はいつ？」

当時、古い釣具への興味が芽生えたばかりの僕は、その質問に稚拙で浅はかな回答をしました。今となっては恥ずかしくて、穴が有ったら入りたいような内容です。

その後、僕自身その答えを知りたいという欲求が大きくなり、古い古い昔の釣り雑誌を漁るようになります。

ヤフオク、メルカリ、古本屋サイト、国立国会図書館、その他様々。

昭和の茶色く煤けた古本を集めては新たな情報を見つけ、その情報が次の疑問に繋がり、また古本を漁る。そんなことを繰り返した5年間でした。

で、こんな記事や

『国産初のグラス投げ竿は？』国産初のグラス投げ竿は何なのか？この疑問に向き合って5年ほど経ちます。まだ確定出来る証拠が無いのですが、現時点で「何が分かって何が分からないのか」を記してみま…

ameblo.jp

こんな記事も書きました。

『国産初のグラスロッド続編』国産初のグラスロッド、特に投げ竿は？という観点で、少し前にこんな記事を書きました。『国産初のグラス投げ竿は？』国産初のグラス投げ竿は何なのか？この疑問に向き…

ameblo.jp

概要は上記2つの記事に書いてある通りですが、鍵を握るのはオリムピックとNFT。

オリムピックについては植野善雄伝でいろいろ情報が拾えるんですが、NFT・日本フィッシングタックルについては資料が無さ過ぎて、一番肝心なところが分からない。

NFTはいつ創業されたのか？

どのように釣竿の製造、販売を始めたのか？

国内初のグラスロッドはNFTなのか？

5年間調べましたが、いまだに分からない。

NFTに関してはもうギブアップです。

決断。

この度、いよいよ最後の手段を取ることにしました。

もはやこれしかありません。

法務局です。

NFTが世田谷区に有ったのは雑誌の広告で知っていました。

ならば、法務局に尋ねれば登記情報が分かると思い、東京法務局世田谷出張所に問い合わせしました。

本当は創業時のカタログを見つけて大喜びするとか、その頃の雑誌広告や記事を見つけたかったし、こんな事務的な手段は取りたく無かった。

夢まで見たんです。

古本屋からNFT創業時のカタログが届いて、

大喜びで開いたら何故かパワーループアクシスが掲載されていた、っていう変な夢でしたが。

もしかしたら、日本国内のどこかの本棚の片隅に、「本邦初！NFTのグラスロッド！」なんて掲載された雑誌やカタログが有るかもしれませんが、出会える確率は宝くじ当選よりも低いはず。

そもそも、そんな資料はもうこの世に無いのかもしれません。

NFTについて知るには法務局。

もうそれしか方法が無いんです。

電話で問い合わせ、手紙を書きました。

手数料の収入印紙600円を送ると・・・。

届きました。

法務局に保管されていた登記内容です。

担当者の名前は消しておきます。

めくります。

右ページ拡大

写真では文字が読みづらいので、以下に書き直します。

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登記の年月日　昭和24年8月26日

商号　日本フィッシングタックル株式会社

目的　輸出用釣竿及び釣道具製造販売に附帯する一切の業務

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と、書かれています。

キ、

キ、

キ、キ、キタぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ❗❗❗

つ、ついに見つけたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ❗❗❗

NFTの創業は昭和24年8月26日

NFTの創業は昭和24年8月26日

NFTの創業は昭和24年8月26日

もう一回言います

NFTの創業は昭和24年8月26日

いろんな推測や憶測は見聞きしましたが、

どれも曖昧なものばかりでした。

ここに完璧に正確に日本フィッシングタックル株式会社の創業年月日を記します。

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NFTの創業は昭和24年8月26日です❗❗

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(TдT)　(TдT)　(TдT)　(TдT)　(TдT)

涙、涙で感動のフィナーレ・・・といきたいところですが、これで終わりません。

この登記簿、面白いのはここからでした。

左ページに書かれている登記時の取締役。

この人たちがNFTを起ち上げた。

一体誰が？

よく見ると、何人か名前を連ねる中に注目すべき人物がいました。

多田一松氏です。

創業時の取締役に多田一松氏がいる。

多田キンという名前も。奥さん？母親？娘？

多田釣具製作所の社長がNFT創業時の取締役。

鼻血が出そうなほど興奮。

植野善雄伝にはこう書かれていました。

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「当時、六角竿の本家である多田釣具製作所（多田一松氏）は、NFTへ身売りをして、朝鮮戦争特需に乗って六角竿の全盛期を迎えることになった。（喜楽の喜多村猛氏談）」

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喜多村氏の談話を聞くと、

1. NFTという会社が有って

2. 多田製作所が身売りした

3. 身売り＝買収、吸収

このように理解してしまうところでしたが、どうも様子が違う。

実際は

1.中村富次郎氏と多田一松氏らがNFTを創業

2.多田釣具製作所は存続していた

ということのようです。

昭和29年9月号の月刊つり人を入手しました。見てみましょう。

この広告です

昭和29年9月の時点で、多田釣具製作所は存続している。

しかも、ネットで検索すると昭和40年代から50年頃に野鯉釣りの六角竿を作っていたような話も出てきます。

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登記簿の内容と、多田釣具製作所の広告から推察すると、

NFTは多田釣具製作所の技術供与で六角竿の製造を始めた。

多田釣具製作所は従来通り営業を続け、多田一松氏は一時的にNFTの取締役を兼務していた、ということになると思います。

もしくは、OEMで多田釣具製作所が製造した六角竿を、NFTの六角竿として販売していた可能性も考えられます。

細かい部分を知るには、また法務局に問い合わせて（笑）、多田釣具製作所の登記内容を確認する必要も考えられますが・・・。

いずれにせよ、総論として、

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【創業時のNFTは多田釣具製作所の技術で輸出用六角竿を作るメーカーだった❗】

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この部分は結論として確定して良いと思います。

ちょっと脱線するけど、シマノのスピンパワー。名前の由来がシマノが吸収したNFTのスピンパワーなのは周知の事実。

そして、NFTの竿は多田の六角竿が起源。

つまり、家系図を書くと、シマノスピンパワーのご先祖は多田製作所の六角竿に繋がるのかな？

極論すぎるかもしれませんね。

人間の祖先は猿だった、みたいな話になっちゃうかな？

話を元に戻しましょう。

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次のページにはさらに重要な記述が。

右ページ拡大

以下に書き直します。

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昭和28年10月10日、目的を左の如く変更した。

1.釣竿及釣道具の製造、加工及販売

2.グラスファイバーを原料とする製品の製造加工及販売

3.竹を原料とする製品の製造、加工及販売

4.右に附帯する一切の業務

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目的欄が変更され、「輸出用」という文字が消えて、ついに「グラスファイバー」が登場しました。

この目的欄が意味することとは・・・。

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【NFTは昭和28年10月から国内向けグラスロッドの製造販売を始めた】

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キッ、キッ、キタぁぁぁぁぁぁッ❗❗

こ、これぞまさしくNFTがグラスロッド製造をいつ始めたのかという確固たる証拠❗

興奮を通り越して、なんだかもう泣きそう。

しかも左ページには見覚えのある名前が。

書き直します。

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同日（昭和29年2月25日）

左者取締役に就任した　和田三郎

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和田三郎❗

植野善雄伝によると、オリムピックは工大出身の和田三郎氏をフェノール樹脂の研究担当としますが、和田氏は昭和26年〜27年頃に、研究データを持ったまま他社へ移籍した、と書かれていました。

他社とは、おそらくNFTだろうと思っていましたが、やはり・・・。

和田氏はオリムピックで研究したデータを持ってNFTへ。

そのデータを元にNFTは昭和28年10月にはグラスロッドの製造を開始。

和田氏は研究データという手土産と引き換えに、取締役にまで就任したということになります。

まさかこんな名前まで拝めるとは・・・。

興奮し過ぎました。ちょっと落ち着きます。

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オリムピックは昭和27年にフェノール樹脂グラスロッドの特許を申請しています。

おそらく昭和27年から28年にかけて海外向けのグラスロッドはいくらか製造しているはずですが、植野善雄伝によれば本格的な生産は昭和29年から。

その昭和29年に大量生産したグラスロッドも米軍向けで、国内販売はしていない。

特許申請したんだから、他社にグラスロッドを作らせないように持っていけたはずなのに、何故そうしなかったのか？

それについては天龍会長の塩澤美芳氏がインタビューで

「紆余曲折はあったものの、当時のオリムピックの御曹司がいい人だったものだから、特許使用料を独占せずに供託金として集め、それを釣りの振興に活用しよう、ということになりました。」と答えておられます。

しかし、その結果オリムピックはNFTに先を越されることになり、国内での認識は「グラスロッドといえばNFT！」となったのではないでしょうか。

NFT（和田三郎氏）としては「してやったり！」といった気持ちだったのでしょうか。

何が原因でオリムピックと袂を分けたのか分かりませんが、「NFTがグラスロッドのパイオニア」という地位を世に知らしめる達成感は味わったものと思われます。

その後、NFTがオリムピックの特許取り消しを求めて裁判を起こしたそうで、訴状には和田氏の名前もあったとか。

ところが、特許が消えてないことからすると、NFT側の敗訴に終わったようです。

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そして、先ほどのつり人昭和29年9月号です

つるや釣具店の広告に「グラス・ファイバー釣竿」の文字が見えます。

登記簿にも有った通り、昭和28年10月から国内向けグラスロッドの製造販売を始めたNFT。

その10ヶ月後（9月号は8月発売）にはつるやの広告にグラス・ファイバー釣竿の文字。

この広告のグラス・ファイバー釣竿とは、

9割9分9厘間違いなくNFTのグラスロッドだと思われます。

少しまとめると、

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昭和27年頃、オリムピックによって、国内で初めてのグラスロッドが作られた。

ただし海外向けで、国内では流通せず。

昭和28年10月、NFTによって、国内向け初のグラスロッドが作られた。

昭和29年8月頃までには国内で流通していた。

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ということで間違い無いはずです。

そして昭和30年、水の趣味9月号広告。

グラスロッドが国内で流通するようになって2年目。

9種類の製品が掲載され、新製品として展示会で入賞するなど、華々しく紙面を飾っています。

そして翌年には日本グラスロッド工業会が設立され、多くのメーカーが参入、いよいよ本格的にグラスロッドの時代が到来することになります。

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今回、法務局から資料を取り寄せたことで、かなり多くの疑問が晴れました。

しかし、いわゆる「状況証拠」や「間接証拠」を元に断定しているような部分もいくつか有り、もうひとつスッキリしないのが本音です。

そして結局のところ、ここまで調べてもいまだに残る疑問。

例えば、

NFTが一番最初に出したグラスロッドはどんな竿だったのか？商品名は？デザインは？

2番手に甘んじたオリムピックが国内向けに出した最初のグラスロッドはどんな竿だったのか？商品名は？デザインは？

国内初のグラスの投げ竿はNFTのNF68なのか？オリムピックのアマゾンなのか？

どっちが先？いつ発売？昭和31年？

ある程度の予測は立っても、いまだにこのあたりは明確じゃないし、それらを調べるには昭和28年から昭和31年頃の雑誌やカタログを今以上に探す必要が有ります。

でも、そんなの本当に見つかる日が来るんでしょうか・・・。

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最後に。

平成版釣りキチ三平第1巻、地底湖のキノシリマス編。

田沢湖で絶滅したキノシリマス（クニマス）が実は生きていて、別の場所で見つかるという話です。

この話に出てくる一節を紹介して、今回は終わりとします。

そのものが「いるかいないか」を問われたとき・・・

「いる」ことを証明するのは簡単なことさ

なぜならそのものをここに連れて来ればいいわけだから・・・

しかし「いない」ことを確定するには

「いる」可能性のすべてを否定しなければならないだろう

そんなことを証明するのは実際問題として不可能なことだ・・・

故・矢口高雄先生が作品に遺した、僕が大好きな言葉です。

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僕が探そうとしているものは、もはやこの世に存在しないのかもしれません。

でも漫画で描かれていたクニマスが現実の世界で本当に見つかったくらいですから、諦めなければ何があるか分かりません。

未解決の疑問がまだまだありますが、日本のどこかに資料が「有る」と信じて、今後も調査を続けていきます。

長い文章でした。最後まで読んでくださった方、本当にありがとうございました。

NFT創業は昭和○○年❗