私は、中学三年生の時、クラスの級友に

奨められ、江戸川乱歩を読み始めたのだが、

乱歩の大ファンになってしまった。やがて、私は

高校に入学し、夏季の間までには、子ども向け

に書かれたものだけ除いて、殆どの作品を読破

した。思春期の頃の甘美な想い出である。

 私は、この度、想うことあって、乱歩の短編

「押絵と旅する男」を読み直した。初めて読んだ

時から面白かったが、魅惑的な小説だ。

 本編は、主人公が富山県で蜃気楼を見た後、

帰りの電車の中で、奇妙な男と出会うという話し

である。彼は、不思議な押絵を持っていた。

風呂敷に包んであったが、ほどくと、老人と若い

女性が抱きあっている押絵である。男の話しに

寄ると、明治28年、男の兄が、押絵の女を偶然

見つけ、すっかり刷り込み(そりこみ)を入れられて

しまうのだ。つまり2次元コンプレックスのハシリで

ある。私も、昭和末、宮崎勤の事件があってから、

オタク族という熟語が出来、2次元コンプレックスに

罹ってる病的な若者が増えているという話しは聞いて

いた。「風の谷のナウシカ」のナウシカ、「うる星やつら」

のラム、「めぞん一刻」の音無響子等、マンガやアニメの

架空の女の子に恋してしまうのだという。私も、当時、

彼女たちを見て、「アニメのくせに、ムチャ色っぽいなー、

これが実物だったらなー」と、ため息ついたものだ。

本編の小説は、男の兄は押絵の若い女性が大好きな

余り、2次元の世界に吸い込まれてしまったというのだ。

それ以来、押絵の中で、ふたりは睦まじく暮らしている

と云う。兄を思っている男は、例の押絵を、新婚旅行でも

させてやろうと、こうやって、電車に乗っていろんな名所を

見せてやってるのだという。やがて、男は電車を降り、物語

は終わるのでした。なんて粋な話しだろう。

 私の場合は2次元コンプレックスとまでは行かない。

私はマンガやアニメの女の子に恋をしたとまでは行かない。

でも、私も、似たようなものだ。私も、悦子さん、アンリさんの

額縁に入れた画像は、常に持ち歩いているといっても過言

ではない。彼女たちは実在する人たちではあるけどね・・。

 本当に、恋とか愛って何だろうね??

 恋とか愛は理屈じゃない。

 本当に2次元世界ってものが実在すればいいのに。

 私は、おとな気ないですか・・。