■有名大企業の場合、中途採用の本気度を見よう
転職率は、企業の規模によって大きく異なります。株式会社リクルートと株式会社リクルートエージェントの第6回転職市場定点観測調査によれば、37歳時点において20-49人の企業規模での転職経験者比率が80%を超えているのに対し、5000人以上では40%を下回っており、また1万人以上では約30%、2万人以上では約20%の比率になっているのです。つまり、大企業であればあるほど、転職者の比率は少ないのです。
有名大企業であっても、いまやまったく中途採用を行なわないという企業は珍しくなっています。しかし中途採用の実態には、バラツキがあると思われます。キャリア採用は補完程度にすぎず、あくまで新卒採用を人材の中心に据えていく方針の会社では、新卒採用された「生え抜き」の比率が高く、文化の同質性も高いので、その同質性に馴染んでいくにはそれなりの努力が必要になるでしょう。
■会社方言を知らないことで、部下に甘く見られる
こうした同質性で苦労するという点は、実は日常の些細なところにあらわれてきます。有名大企業各社の人事部長に聞きますと、転職者が組織文化に馴染むにあたり最も苦労する点は、会社方言だそうです。
会社方言とは何でしょうか。要は、その会社だけに通用するビジネス用語のことです。ただ会社方言が特徴的なのは、他の会社ではまったく別の言い方をするのに、なぜかその会社の中だけではその会社独特の言い方をしてしまうところにあります。面白いもので、当のその会社の社員たちは、その会社にしか通用しない表現にもかかわらず、共通表現と思い込んでいるのです。
転職者にとって、会社方言は入社するまで知る由もありません。ですから入社して、その存在に苦労させられるのは当たり前のことなのです。しかし、その会社で長く勤務している部下の目から見ると、転職者は即戦力で優秀だから採用されたのに、こんな用語さえ知らないのかと嘲る気持ちが生じてきます。
本当は会社方言などは、わからないたびにいちいち聞いて覚えるのが一番の早道なのですが、転職者も自分は即戦力として入社しているというプライドがあります。あまりにも簡単すぎるようなことを聞いては恥という気持ちが生まれがちです。
そのため転職者は、自分はこんな簡単なことさえわからないのかという自信喪失に陥り、早期に退職してしまうなど、メンタルヘルスの問題が発生してしまうことも少なくないようです。
■生え抜きに比べて、根回しに数倍の労力がかかる
会社方言と同じく、組織力学のツボを把握するのも転職者にとって非常に頭の痛い問題です。組織力学のツボとは、言い換えれば、誰に、どういう順番で、どういうタイミングで根回しするかということに他なりません。これを会得することは大変に難しいものなのです。
転職したばかりで、こうした根回しのツボを把握するのはほぼ不可能です。しかし、話はこれだけでは終わりません。誰に、どういう順番で、どういうタイミングで根回しするかということを情報として理解するだけでうまくいくわけではないからです。今度は、実際に根回ししたときに「コイツは仲間だ、信頼できる」と思ってもらえないと、なかなか先に進まないという問題があるのです。
つまり、転職者がまだ「(生え抜きのように)仲間」として認められていないため、根回しに余計な時間がかかってしまうわけです。つまり、組織文化に馴染んでしまえば、根回しの時間はかなり短縮されるはずです。
仲間になったと認めてもらうには、一定の時間をその会社の人々と一緒に過ごすことが必要です。それは日常の仕事でも、プロジェクトでも、飲み会でもいいのですが、ある一定時間の絶対量を共有しないかぎり、なかなか仲間とは認めてもらえないでしょう。つまり個人としては、根回しがうまくいくようになるまで、ある一定時間は我慢の時期が必要だということです。
■新興企業・外資系は、リスクの内容が事前につかみにくい
次に、新興企業と外資系という分類で話を進めていきますが、本来はこうした一括りは適切ではないでしょう。新興企業・外資系については、さまざまな面での各社間での差が大きいからです。
つまり転職のリスクも、その内容が個別に変わってくるということなのです。最も危険なことは「ベンチャー企業だったら、こんな社風だろう」とか、「外資系だったら、こんな仕事の進め方をするはずだ」と思い込み、それに合わせたリスクだけを想定してしまうことです。
たとえば組織文化の個別性の違いは、新興企業・外資系では、日系の有名大企業より大きいものとなります。新興企業の場合、一定の比率でオーナー企業が存在します。ここに、よく考えておくべきポイントがあります。
組織文化とは、オーナー、特に創業者から大きな影響を受けます。オーナーの考え方の違いで、組織文化の内容がまったく異なってきます。また外資系企業の場合、どの国の系列かによって微妙に組織文化は変わってきます。そうなると、やはり自分に合った組織文化であるかどうか、なるべく事前に確認しておくべきでしょう。
なお、日系企業、外資系企業という括りは一般論にすぎませんが、それを承知のうえであえて特徴を述べますと、外資系企業では人事制度の中心に職務という考え方があり、個々の社員が担当する職務は明確に定義されています。これは、個々の社員の責任範囲が明確化していることを意味します。すなわち、不必要な根回しは行なわずともすむわけですが、そのかわり自分が判断したことの責任は明確になります。
そのため日系企業から外資系企業へ転職する際は、「多くの人に根回しするのは得意だが、意思決定はゆっくり」というスタイルを、「根回しは最低限でいいが、意思決定を迅速に」というスタイルに変更しなくてはいけないのです。
■入社前とのギャップは必ずある
転職先に関する事前の情報収集は重要ですが、どれだけ緻密に事前の情報収集をしたとしても、ギャップをゼロにすることは不可能です。やはり入社してみて、はじめて理解できることは少なくありません。
ですから、なるべくギャップをゼロにするのではなく、何か必ず期待はずれのことがある、予測できないことがある、という心構えで入社するくらいでちょうどよいのではないかと思います。期待どおりのこと、また期待以上のことがあれば、ラッキーだと思えるくらいですと精神的にラクになるでしょう。
各社の人事部長の話を聞いても、やはり入社して30日、または90日くらいの節目で転職者が失望していないか、細かく気配りをするそうです。裏を返せば、入社直後の90日くらいで失望してしまう転職者がそれだけ多いのが実態なのです。
■最初の半年は、誰でも成果を出せない
即戦力として転職した場合、成果として期待されることは、職場に何らかの変革、またはイノベーションをもたらすことでしょう。これは、社内の多くの人からの協力を得ることによってはじめて達成できるものです。
そうなると、他人からの信頼を勝ち得るまでの一定期間、どんなに優秀な転職者でも成果は出ないことになります。この一定期間は人や組織の状況によりさまざまですが、平均すれば、ほぼ半年と考えてよいのではないでしょうか。つまり、誰でも半年は目立った成果が出なくて当たり前ということなのです。
そこで、最初の半年は苦しいものと考え、それを乗り切る対策を打っておくことが重要です。おすすめとしては、採用担当者にお願いして、社内のメンターを紹介してもらうという方法があります。メンターに、組織文化の特徴、組織力学のツボ、根回しのツボ、社内の人脈などを教えてもらうのです。
この内容に共感する。
何も知らないのかと揶揄されることに憤りを感じるが、見てきた世界が違うから仕方がない
どれだけ早くアジャストできるかが肝なのかな